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64.
テーブルに残されたクランベリースコーンを口へ放り込み、足早にバスルームへ向かった。
白いガーターベルトと小さな下着を脱いで、シャワー・ブースへ入りコックをあける。
勢いよく飛び出す水滴すら夢のようで、洗い流す音が幻聴のように耳に響く。
白い湯気の中に礼拝堂の式が鮮やかに蘇り、再び感動で震えだす私の胸。
親切な神父様が、事前に英語で教えて下さった誓いの言葉は、既に私の体の一部となり息づいている。
汝は、その健やかなる時も、病める時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつ時まで、
堅く節操を守ることを約束しますか?
愛し合う者たちに尋ねる言葉でありながら、愛の泉で歌われる賛歌のように響く。
本番は、英語が一切なしで全てフランス語。
けれども、神父様は語りかけるようにゆっくり話してくださったので、理解するには十分だった。
「Oui, Je promets.」 ( はい、誓います。)
流暢なフレンチで答える美作さんの声が聖堂に響く。
母国語でなくても、ちゃんと私の胸に届いて感動で涙が出そうになった。
ちらりと私を見た美作さんの瞳が忘れられない。
意志の強さを漲らせ、神々しくも美しく、これをもって私を拘束すると明言し射抜くような瞳。
美作さんから伸ばされる何千本もの柔らかい触手に、体中ぐるぐる巻かれて縛られていく感覚が気持ちよくて安住の安らぎを覚えた。
男が神聖な場所で宣誓する姿は、近寄りがたいほど美しい。
旧約聖書のイブは、蛇に唆されて善悪の知識の木の実を食べたという。
神との約束を守る気高いアダムには、さすがの蛇も近づけなかったのかもしれない。
神父様から同じ問いが私に向けられる。
答えは一つ。
「Oui, Je promets.」
私の声は、驚くほどよく響いた。
バスローブ姿でリビングへ出ると、美作さんにフワリとつかまえられた。
「一緒に、シャワー浴びたかったのに・・・。」
少し甘えた声で、私の首筋に息を落とす美作さん。
「ごめん、急いでいたから。」
こんな可愛い美作さんもすごく愛しくて腕を回して背中をなでてあげる。
美作さんは顔を上げ、私の半乾きの髪に指を入れながら、愛しそうに私を見つめた。
「牧野、俺らはもう夫婦なんだよな。
俺、まだ実感が沸かないわ・・・。」
「そうだね・・。でも、私、すっごく感動したよ・・・。
美作さんが、誓いますって言ってくれた時、涙が出そうだったの。」
「そう? 何度でも、誓ってやるさ・・・。
でも、俺のこと美作さんって呼ぶのはおしまい。
牧野、お前はもう牧野じゃないだろ?
それに、俺の事だって、いつまでも美作さんって呼べないだろ?
これから、ファーストネームで呼びあおうぜ。
つくし・・どうだ?」
ちょっと照れて話す美作さんが可愛くて、素直に笑顔で言えた。
「うん、あきら・・・いいね。」
微笑む美作さんの顔が近づいて、唇を重ねてきた。
舌が唇を割り、口内に入り込むなり舌を求めて追いかけられ、無防備だった唇は、生殖器のようにゆっくりジワジワと液体で濡れはじめる。
美作さんのものか自分のものかわからない唾液があふれ出し、乾いたのどに潤いを与える。
いくら飲み込んでも、火のついたからだにはそんな程度じゃ全然足らなくて、さらに激しい口付けへと進んでいく。
「あっ・・・・・、美作さん・・・。だめだよ・・・。・・・・が、来る・・・。」
雄の色で染まる美作さんの瞳に、壁まで追いやられ、バスローブの襟元をつかまれたと思ったら、一気に脱がされ、上半身があらわになった。
小ぶりな胸が空気にさらされる。
女の喜びを知った体は、大好きな香りに包まれ、その大きな手でもみしだかれるだけで、情けないくらい早く戦意を失うようになってしまった。
背の高い美作さんはぐっと腰を曲げて、左胸の頂を口に含める。
右胸も執拗に攻めたてられて、足から力がぬけて、そのまま壁づたいにズルリとしゃがんでしまった。
「牧野・・・、少し休もうか?ベッドで。」
ニヤリと笑いながら、上から見下ろす愛しい男。
「・・・うん。」
ベッドに運ばれ、まさに組み敷かれた時、
ピンポーン
「あっ、来た!」
「ちぇっ、嘘だろ。
しょうがない、続きは後だ。つくし」
そういって、美作さんは私のバスローブを整えてくれた。
それから、サロンの人にあれよあれよと言う間にメイクアップをしてもらいドレスに身を包んだ。
胸元には、この日のために美咲ママからの贈られたダイヤxルビーのネックレス。
ヘアーは緩やかにアップされ、ほつれ毛の横でネックレスとおそろいのイヤリングが揺れている。
目が覚めるような真っ赤なシルクのドレスは、美作さんと一緒に選んだもの。
新しい世界への旅立ちに、赤の強さから勇気をもらえるかと、思い切って選んでみた。
デザインは体に沿ったロングドレスで、スパゲッティのように細い紐が胸の膨らみの上あたりから肩を通って背中で大きくクロスを描いている。
リビングへ戻ると、美作さんは光沢あるダークグレイのスーツに着替えて、ソファーに座っていた。
「お待たせ・・・。どう?」
クルリと一回転してみた。
「赤いバラの花びらが舞っているみたいだな・・・。
牧野、すごくきれいだ。」
紳士的に頬杖をつきながら、すごく嬉しそうな顔で微笑む。
”貴方に会うために私は生まれたのよ。”
時が来て、ようやく花ビラが開き姿を現したような、湧き上がる自然な言葉だった。。
つづく
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