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選んでくれてありがとう

美作あきらx牧野つくし

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選んでくれてありがとう 43
eranndekuretearigatou43

43.

美作さんがイタリアから帰ってきた。

「おかえりなさい。」

玄関でにっこり出迎えると、使用人の前で美作さんに抱きしめられた。

「牧野、大事な話がある。後で俺の部屋にきてくれないか?」
「うん、私も、話があるの。」



トントン・・・

「どうぞ。」
「おじゃまします・・・美作さん、疲れてない?」
「ああ、大丈夫だ。」

改めて、私を捕まえぎゅっと抱きしめる美作さん。
その香りに包まれて、ポーッとなりそうだ。

でも、美作さんの様子がいつもと違っていることに気付いた。
いつまでも無言のまま顔をうずめて、どうしたのか顔をのぞきたいのに、強く抑えられていて身動きできなかった。

「ねえ、美作さんどうしたの?なんか変だよ。もしかして、本当はお父様のお病気がひどかったの?」
「親父は元気だ。良性ポリープで経過観察らしいし・・・。」
「そう。よかった。」
「実は、その親父なんだけど、ちょっと弱気になったせいか、日本に戻ってここで暮らしたいらしい。それで、親父の代わりに俺がイタリア支社を統括することになったんだ。」

ゆっくり言い聞かせるように言う。

「それって、美作さんがイタリアへ行っちゃうって事?」

無言で頷く美作さん。


レコード会社との契約のこと言わなきゃ、早く言わなきゃ・・・そう思っているのに、頭がボーっとして、ただ大粒の涙が後から後からあふれてきて止まらない。

目の前が揺れていく。

「わ・わたし・・・・、ごめんなさい。」
「牧野?」
「・・・あのね、あのね、私、イタリアへは行けないの。結婚もだめだって言われたの。」
涙でぐちゃぐちゃな顔で、一生懸命伝えた。

「CM会社との契約か?」

「し・知ってたの?」
「そんなところだと思ってたよ。んで、何年だ?」

「え?何年?・・・ああ、えっと、3年間は、バンドに悪影響を与えるリスクを犯せないの。」
「やはりな。それで、牧野はどうしたい?」

「へ?」
「だから、どうしたい?残る?・・・、俺と一緒に行く?」


え?だから、言ったでしょ。
契約があるから行けないんだよ・・・。聞こえてたよね?

美作さんの真意が分かりかねて、穴があくほど見つめていた。

「あのね、契約を破棄したら、すっごい賠償責任を負わされるんだって。お金だけじゃない、色々迷惑もかかる。
事務所の人にもバンドのスタッフやメンバーにも・・・。」

美作さんは、わたしの両肩に手を載せて、私の瞳に向かって静かにゆっくりたずねる。

「まきの、お前はどうしたい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「もし、俺が問題を解決できたら、一緒に来るか?」

「美作さん・・・。」

私の頭は混乱していた。

美作さん、一体何言ってるの?
問題を解決?そんなことできるわけないよ。
私には理解できない。

『結婚は出来ない。・・・籍は入れられない。・・・バンドは辞められない。・・・イタリアへは行けない。・・・』

もうなにがなんだか、自分が何をしたいのか、どうするべきなのかわからない。

突然、谷底へ脚を突っ込んでしまったみたいに、どこにも足場が見えなくて動けない。
助けて欲しいよ、美作さん・・・。

「私、どうしたらいいのか分からないよ。ねえ、どうしたらいい?ううっ・・・私だって離れたくなんかないよ!!」

激しく取り乱し、泣き叫ぶ私。

「牧野!牧野!落ち着け!なっ、大丈夫だから、落ち着け!」


震える私の体を、胸の中に閉じ込め、きつく抱きしめてくれる。

「大丈夫だから・・・大丈夫だから・・・。しー、しー、しー」

大きくて暖かい手で、長い間背中をさすってくれた。

私の呼吸がようやく落ち着いてくると、頭をなでながら後頭部をつかんで、私の顔をのぞきこんだ。

「俺は牧野が一緒に行きたいと言ってくれるのなら、なんだってしてやる。紙の上で生じたものは、心配するな。
大事なのは、牧野がどうしたいかだろ?わかるか?そうだろ?
俺は牧野と結婚したいと思っている。
結婚してもバンド活動を続けたければ、俺は全力でお前を守ってやるつもりだ。
けど、俺はイタリアへ行く事になった。
問題は、牧野が離れて暮らすことを選択するかしないか・・・。
つまり、牧野がバンドをあきらめるかどうかなんだ。」


美作さんは、涙が乾いたばかりのわたしの瞳に向かって、わかりやすく話してくれる。

私はどうしたい?

やさしい美作さんは、私を強要することも惑わすこともせず、まっすぐに私の気持ちを優先したいと言ってくれている。

愛する人に強く愛され包まれる喜びで、地に足がつかないほど幸せで、この幸福感をファンに伝えたいと思ったのがついこないだなのに、なんということだろう・・・。
そのぬくもりが海の向こうへはるか遠くへ行こうとしている。

「ちょっと考えさせて・・・。」
「ああ、わかった。  今日は、このままここで休むか?」
「・・・、離れたくない。」

美作さんは、私を横抱きしてベッドへ連れて行こうとした。

「ねえ、待って。何か飲みたい。」
「うん?何を飲む?」
「お酒・・・。」

美作さんが帰ってきたのに、悲しい気持ちでいたくなかった。
考えないといけないことは、今だけは忘れたい。

「お酒?めずらしいな・・・。」
私の表情を伺いながら、ソファーにそっとおろしてくれた。

「ウイスキーをお願い・・・。」
「おいおい、水割りかよ。」
「ストレートで。」
「ふーっ、お姫様のおっしゃるとおりに・・・。」

私は手渡された茶色い液体を見つめてから、美作さんとグラスをあわせた。
口に液体を流し込むと、喉が焼けるようにヒリヒリした。

そんないつもと違う私を見つめ、そこに居るだけで私の心を引き寄せて止まない人。

『愛してる・・・美作さん・・・・。』
心から自然にいくらでも湧き出る美作さんへの愛の言葉。

だのに、こんなに幸せな最中、胸中ではチラチラと異質な明かりが瞬いていた。

さっきからずっと気になって仕方なかった。
意識を向けると、その消えない小さな明かりは少しづつ明瞭に存在感を主張しだす。


美作さんといるのに、まだ見たくないし、知りたくない面倒なもの。

手の中のグラスをグイッと空けた。

「いいの!」
「・・・・今、水を持って来・・・・・」

立ち上がろうとする美作さんの言葉をさえぎり、

「ねえ、美作さん、抱いてよ。」

見上げて言った。

「壊れてもいいから。」

つづく

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