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42.
ここはMCレコード会社の会議室。
「つくしちゃん、つくしちゃんが美作商事の美作さんとお付き合いをしているのは、後藤田から報告うけてるから知ってたけど、結婚とかなると困るなあ・・・。」と藤巻さん。
亜門からCM規定のことを聞いたとき感じたいやな予感が的中した。
「いや、結婚って別に決まったわけじゃないのですが。一応、結婚を前提におつきあいしていますっていうことなんですが。」
「今、revolution’sが2本のCM契約してるのわかってるよね?
契約は3年間、バンドの解散はしないこと。
それから、個人的・人為的理由によりバンドの人気に悪影響を与えたり宣伝商品に悪影響を及ぼさないことなど。
もし、契約を破れば莫大な賠償責任が発生することになっているんだ。
バンドのシンボルのつくしちゃんが結婚によって与える影響のリスクは高いと思う。
Revolution’sはビジョアルでも売ってるバンドだからね、イメージの損失は多分起こりうるよ。
それにね、美作商事さんは優良企業だけれども、CM契約している会社とどこかで競合している部門なり関連会社があるかもしれないもんなあ。
つくしちゃんだって、今、伸び盛りなんだから結婚なんかより歌に集中してがんばってよ。
頼むよ。」
そう言われてしまうと返す言葉も無かった。
歌を歌うことに気を取られ、契約なんて気にもしていなかった。
知らない間に、課せられていた身を縛る内容。
いや、“もう、恋愛なんてできない”って思っていたあの時は気にも留めなかっただけ。
でも、美作さんとの事を真剣に考え出した今、初めて契約の重大さに気付いた。
『3年間ね。美作さんはなんて言うだろう。』
“俺たち、籍入れないか?”って言ってくれた真剣な瞳を思い出すと、美作さんになんて伝えればいいのかわからない。
美作さんに何て切り出そうかと思いあぐねるうちに、時間が流れるように過ぎていった。
そんな折、イタリアの美作パパが健康診断ですい臓に腫瘍が見つかったという知らせが入る。
初めての事に、心配でオロオロする美咲ママを連れ、美作さんはすぐにイタリアへ飛んだ。
Trururururuururur・・・・・trurururururururu・・・・・
「おっ、牧野か?俺」
「美作さんでしょ、言わなくても分かるよ。」
「あっ、そうだな。変わりないか?」
「クスッ、“いってらっしゃい”って昨日言ったばっかりじゃない。クスッ。」
「そ・そうだな。」
「ねえ、お父様の様子どう?」
「まだ精密検査の結果でてないから、なんとも言えないな。
相変わらず、おふくろがビビってて、まるで重病人相手みたいに世話するから、親父はデレデレしてるかな。」
「久しぶりに会うんだしね。本当に仲いいよね。」
「なあ、牧野、お前何か俺に言いたいことあるんじゃねえ?なんか、隠してるとか・・・ちょっと、気になってたんだけど。」
「べ・べつに・・・。」
「そうか、じゃ、また電話するわ。」
気付かれてたんだ・・・。
帰ってきたら、ちゃんと整理して言わなきゃ。
けれども、事態は予想外の方向に進んでいった。
ミラノにある病院の特別室で、口にカットフルーツを入れてもらってデレデレ嬉しそうにしている親父。
「あなた、いっぱい食べてね。お医者様が長年にわたるストレスも関係してるかもしれないっておっしゃってたわ。しっかり休んでくださいね。」
「親父、本当によかったよな。悪性じゃなく、良性ポリープで。」
「ほ~んとよかった~、ママ、健一さんに何かあったら生きていけないもの。」
涙ぐむ母親。
「心配かけたな、美咲。
そこでだ、あきらに話がある。
俺は、美咲としばらく日本で一緒に暮らしたくなった。
お前は、こないだの横浜みなとみらいプロジェクトをやり遂げて実力がついてきたところを見せてくれた。
社内評価も上がっている。そろそろ副社長としてイタリア支店をまかせたいのだがどうだ?」
「・・・、はい。」
「このままここに残って引き継いでくれないか?」
「ちょっと親父、待ってください。実は、俺、心に決めた人が日本にいるんです。だから・・・」
「牧野さんのことだろう?」
「はい。そうです。」
「一般家庭の子だそうだな。ふふ、だからといって、結婚に反対するつもりはないぞ。
まっすぐな瞳をしたかわいらしいお嬢さんじゃないか・・・。聞けば、美咲も娘達も相当気に入ってるらしい。
その人と、将来を一緒に築いていきたいんだろ?
そんな大事な思いを諦めらきれるものわかりのいい人間になられても困る、ハッハハ。
何も問題ないじゃないか・・・。結婚して、こっちで一緒に暮らしたらいい。」
「実は・・・あいつは今、日本を離れられないんです。」
「それはどうして?」
「あいつは、日本のバンドで歌を歌ってます。
RCレコード会社からCDデビューもして、売れ始めたところですし、多分、CM会社との契約規定があるはずですから・・・。」
「それは、契約が切れるまで待つという事か?」
「わかりません。
でも、全て牧野の希望通りにしてやりたいと思います。
もし、牧野が付いてきたいと言うなら、俺はどんなことをしても連れてきます。」
「ホホホ・・・、たいした覚悟だな。いいだろう、その時は援助しよう。」
ヨーロッパ、特にイタリアに強い美作商事を束ねるために、イタリア駐在は欠かせないものだと分かっている。
親父のポリープ事件があろうがなかろうが、俺のキャリアを考えたときにも、次のステップとして今行くべきなのだ。
ただ一つ、牧野が側にいない生活に俺は耐えられるだろうか・・・。
牧野のぬくもりを知ってしまった今、考えるだけで萎えてくる。
牧野はなんと言うだろう・・・。
とにかく、牧野と話をするため帰国の手配をした。
つづく
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