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45.
翌朝、私はバンド練習の予定をはずせなかった。
まだベッドで眠っている美作さんを残し、自室へ戻りバスルームへ向かう。
熱いお湯をためて、ラベンダーのバスオイルを2滴たらした。
お湯から立ち上る湯気とラベンダーの香りの中、冴えた頭で色々考える。
『私は、一体どうしたいのか?』
美作さんと離れ離れになるなんて、つらすぎて考えたくもなかった。
蓋をしてしまいたかったのに、私の奥底に存在して、追いやっても消せない思い。
それは、“音楽を続けたい”という思い。
目を瞑ると浮かんでくるファンの声援。
歌を届ける喜びと伝えたいと願う熱い志。
自作の曲をバンドで歌いたいという夢。
始まったばかりで、これからだよ。
違約金や迷惑をかけることはいけないこと。
そんなことより、改めて美作さんが気付かせてくれた一番大事な今の気持ち。
どこまでできるかわからないし、明日のことは誰もわからない。
わかるのは、後悔だけはしたくないから、もう少しだけこの世界でやってみたいという気持ち。
美作さんにも、どうかわかってもらえますように。
練習は、心ここにあらずで、マネージャーが呼ぶ声に気付かなかったり、亜門の指示を忘れたり、歌詞を入れ違えたりが目立った。
恋人と離れて音楽を続けたいと思ったくせに、脆い自分が情けない。
何をやってるんだろう私。
しっかりしろ・・・つくし!!
どこからか聞こえてくる活を入れる声。
私は英徳でF4に逆らった牧野つくし。
赤札張られて全校生徒を敵に回しても、踏ん張ってきた、F4目当ての女狐たちからのイジメに耐えた私。
あの雑草魂を思い出せ!
ようやく、決心が固まった。
練習が終わったら、すぐに返事をしよう。
美作家の玄関に入り、美作さんは帰っているのか使用人に尋ねると、自室にいるらしい。
そのまま美作さんの部屋へ向かった。
トントン・・・
「はい。」
「私。入っていい?」
「おう、牧野、お帰り。」
ニコリと微笑む美作さん。
「ただいま。・・・あ・あのさ、昨日の話なんだけど。」
「ああ。」
立ったまま、私を見つめている。
一・二歩、前に歩み出てから口を開いた。
「私、音楽を続けたいの。
今、音楽をあきらめるなんて、やっぱりできない。
一緒にイタリアへは行けないよ。
もちろん、美作さんのこともあきらめるつもりもないから、虫のいい話かもしれないけど、会いたくなったらイタリアへ行ってもいい?会ってくれる?」
「ふっ、俺の方が待てなくて、顔見に帰ってくるよ。」
「美作さん、わかってくれるの?」
「牧野がそうしたいなら、それが一番いいんだ。
お前、一生懸命で本当に嬉しそうにしてたの見てきたし。
牧野の返事は、なんとなくわかってたよ。
ただ、俺の方が牧野と離れてやっていけるか自信なくてさ、牧野を困らせたんだな。
もしかしたらって、あがいてみた・・・ごめん。」
「ごめんね。美作さん。」
「だから、謝るなって。」
「うん。」
美作さんが近づいてきて、私の腕をとる。
「俺は、離れていてもお前に対する気持ちは何ら変らない。
やっとつかんだお前を誰にも渡す気なんかないからな、忘れるなよ。」
そういって、私を抱き寄せた。
「私だって、美作さんのこと離さないんだから。覚えていてよ。」
厚い胸板の後ろに手を回し、思い切り抱きしめ返す。
大好きな香りの中で、このままこの中に溶けてしまえたらいいのに・・・と思った。
つづく
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