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選んでくれてありがとう

美作あきらx牧野つくし

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選んでくれてありがとう 58
eranndekuretearigatou58

58.

スタジオ受付では確認証がないので、牧野の呼び出しを断られた。

仕方なく、マネージャーの後藤田さんを呼び出してもらう。

「こんにちは、すみません、急に」 
「こんにちは、美作さん。どうされたんですか?こんなところへ。」
「今すぐ、つくしに会えませんか?」

俺の切羽詰った様子に何事かと思った様子。

「レコーディング中ですけど、静かにしてもらえるならいいですよ。」


ドアを開けたところはスタジオ内ミキシング室で、ガラスの向こうに牧野が大きなヘッドフォンを耳にあて、ちょうど歌っているところだ。

この生声を発するやつを目の前にして、ようやく日本に戻った実感が沸く。

歌いながら顔を上げる牧野、その瞳が俺を捉えて驚きで大きく見開かれ、歌が終わるまで俺と牧野と交わされ続ける視線。
曲が終わり、牧野がヘッドフォンをはずし、こちらに来ようとしていた。

歌いながら何気に見上げると、ガラスの向こうに美作さんが立っていた。

うそっ!!!どうしてここにいるの!!

会いたくて仕方なくて、私はとうとう幻を見ているのか?

うわっ、美作さんの髪の毛すごく短くなっている、向こうで切ったんだね。
いく筋か垂れている前髪から、ウェーブヘアだって気付くくらいで両サイドはほぼストレート。
はじめて見るショートの美作さんも素敵だ。

久しぶりに見る美作さんは、精悍さを増して男っぽい、まさに香り漂ういい男って感じで、ラフな服装の男達の中にいるせいか、格好良すぎて後光が差して見えるよ。
曲が終るや否や、私はヘッドフォンをはずして、美作さんの所へいこうとした。

スッ・・・

その時、大きな手が私の手首をつかんだ。

え?

振り返ると、亜門がじっと私を見つめていて、その瞳からは何も感じ取れない。


時間がとまったように無言で見つめ合う私達。 

手をつかまれたまま、振り払う気にならなかった。
覗き込めば、亜門の心中が見えそうで、見てあげたいと思ったからだ。

「亜門・・・。」

手首をつかんだ手に、さらに力が入り亜門の胸に引き寄せられる。
麝香の匂いが鼻をかすめた。

この温かい胸に何度も救われたんだ・・・感謝しても足りないくらいだよ、けれども、違うんだよ。

頭の中で色んな思いが駆け巡り、固まってしまった私の体が引っ張られたと思うと、美作さんが亜門の胸倉をつかみ、拳で頬を殴る音がした。

「キャー!」

地面に座り込んでいる亜門に向かって、大声で怒鳴る美作さん。

「貴様、どういうつもりだ!」

「見た通りだ・・・。」
口の中の血を腕でぬぐいながら見上げる亜門。

「牧野は渡せない。何があってもな、わかってるだろうが。」

「ふっ、やっと来たな。」

「牧野には、バンドは辞めてもらうつもりだ。ここには置いておけない。」

「じゃ、連れて行けよ!ちゃんと、お前の側に置いてやれよ!」

「もしかして・・・、お前、わざと仕向けたのか?」

「こうでもしなきゃ、お前は思い切って動かないだろ。」



亜門が私のためにワザと演技して、美作さんを連れてきたという事なの?

引き合わせる企てなんか、さらりと出来てしまいそうな大人の彼(ヒト)。

美作さんは私の方へ向き直り、焦茶の瞳で私を見つめ、両手首をつかんで言った。


「牧野、ずっと俺の側に居てくれ。
悪いが、バンドはあきらめて欲しい、頼む。
これ以上待つのは認めない!少しも離れていたくないんだ。
なっ?いいよな、ずっと側に居ろ!分かったか?牧野、首を立てに振ってくれるよな・・・?」

美作さんのストレートで強引な頼みにもかかわらず、ぽろぽろ流れ出す涙を気にせず素直に頷く私。

この後のことなんか何も考えられなかった。
ただ、美作さんの言葉が私の心をいっぱいにして、開かれた扉から彼への愛が流れ出た感じだった。


美作さんが嬉しそうに私の体を引き寄せ抱きしめる。
大好きなフローラル系の香りに包まれるこの時を、この5ヶ月間待ち望んでいた。
私の幸せはここにあると五感がうるさいくらいに主張する。

甲斐さんが、微笑みながら助け起こした亜門の背中をなぜていた。

「じゃあ、つくしちゃんへのキスも演技だったわけ?亜門に皆だまされたって事か。」
甲斐さんがつぶやく。

「いいや、花沢って奴は気付いてたぜ。」 
「「えっ、(花沢)類が??」」

亜門の言葉に、美作さんと私は顔を見合わせた。

美作さんとは後で屋敷で落ち合う約束をし、スタジオでの仕事を優先した。

スタッフが用意してくれた缶コーヒーを亜門に渡しながら、部屋の隅まで亜門を引っ張り礼を言う。

「亜門、傷、まだ痛む?」
「これぐらい平気だから、心配するな。」
「本当に、色々、ありがとうね。」
「あぁ・・・、余計なお世話って言わないんだな?」
「まさか・・・感謝してるよ。
亜門は気付いてたんだね。
なんだかんだ言っても、ずっと割り切れない気持ちを引きづってたこと。
さっき、美作さんに“ずっと側にいろ!”って言われて、憑き物が取れたように答えが出たよ。」

「イヤという程な・・・。お前の涙は見飽きたところだし、お節介を焼いただけだ。」
「亜門には、私がどうするか見えてたりしたわけ?」

タバコを取り出して火を付ける亜門。
吸い込む拍子にタバコの火は真っ赤にメラメラ揺れて、白く長い煙を吐き出すと、亜門が再び口を開く。

「さあ、どうかな・・・・。
お前は、断ろうと思えば断れたんだ。
なのに、断らなかったのは事実だろ?
それが、一番大事なものだからで、成るように成ったというだけだろうが。 答えは、牧野にしかだせないんだからな。」

「うん・・・亜門、もう一度ハグしてくれる?」
「ん?俺でいいのか?」

亜門はタバコを指にはさみかえ、腕を広げてくれた。
胸に飛び込み、しっかり亜門の体温を感じる。

「あのね、私、亜門のハグが大好きなの。
美作さんの代わりと思ったことは一度もないからね。」
「つくし・・・、いつでもハグくらいしてやるから、美作に飽きたら飛び込んで来い!」

亜門の言葉が嬉しくて、精一杯感謝しながら笑顔を返した。

つづく

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