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62.
まだ春薫る6月大安吉日のこの良き日、私は愛する人の元へお嫁に行く。
といっても、ここは日本から飛行機で13時間も離れた異国、フランスのパリ。
フレンチ訛りの英語がさっきから飛び交っている。
今朝、美作さんの隣で目覚めた時は、いつもの私だったのに、こうして鏡の前に座り、みるみるうちに花嫁姿に変身していく渦中の女性は誰?
デザイナーを選ぶ時から、美咲ママはもとより、滋さん・桜子そして静さんまで、一部強引とも言えるアドバイスをもらって、出来上がった素敵なウェディングドレス。
スケッチを見て一目ぼれしたホルターネックのデザインは、清楚で上品で、華やかでこれだ!と思った。
ドレスに身を包み、ベールを乗せられ、身ごろと同じ生地のヘッドドレスで飾られた髪は緩やかにウェーブがかかりきちんと結われている。
宝石は一切身に着けていない、それは、私のこだわり。
神様の前で、美作さんにリングを嵌めてもらうことに感動したいから・・・。
このル・ムーリス7階ベル・エトワールルームの絢爛豪華なまばゆさのせいか、鏡に映る自分が小さい頃夢見たお姫様みたいで、自分が自分で無いような錯覚に陥る。
露出された鎖骨から肩の華奢なラインが外から差し込む白い光に照らされ浮かび上がり、どこまでも女の体であると強調している。
いつの間に包まれることが似合う体になっていたのかと鏡に向かって何度も問うた。
昨晩、美作さんにすっぽり抱きしめられ一つになって眠ったことを思い出し、顔が紅潮する・・・。
トントン
「Oui, s’il vous plait」
カチャリ スタッフがドアを開けてもらうと、
亜門が顔を出したかと思うと、メンバー達とドアのところで固まっている。
「あっ、亜門・・・?入っていいよ。」
「つ・つくしだよな? ちょっと、俺、マジで息が止まったわ。」
ふふっ、亜門の動きがギクシャクしていてなんだか笑える。
「そんなにいつもと違う?ふふっ・・・」
甲斐さんに抱っこされた崇くんまで神妙な顔をしていたけど、皆、私をまじまじ見てからとてもきれいだとほめてくれた。
「つくしちゃん、白雪姫みたい。小人さんにしてもらおう~。」
調子に乗り始めたメンバー。
全員のスーツ姿も相当稀だけど、やっぱり私のほうがダントツに変身しているのだろう・・・と思いながら、ハル・修・甲斐さんからの祝辞をありがたくもらう。
さっきまでの雰囲気は消え、代わりに楽屋のノリを思い出した。
Revolution’sは個性の違うメンバーが集まって意見をぶつけ合い、音作りは真剣で気がぬけなかったし、緊張の連続だった。
だからこそ、毎回打ち上げはものすごく盛り上がって、お腹を抱えるほどたくさん笑いずっと突っ走って青春して楽しかったな、本当に・・・。
「おめでと! 幸せになれよ!」
亜門がニコリと口角をあげながら覗き込んで言う。
「ありがとう。 亜門・・・。」
夕凪のように穏やかな瞳を見つめていると、言い尽くせない感謝と寂しさがこみ上げてきて、鼻の奥がツーンとしてきた。
涙を茶化しながら、笑顔を引っ付けて言ってやる。
「亜門も、遊んでばかりいないで、モテるうちにいい人見つけなよ!
夢をあきらめないでいたら、叶うもんだね。
もう次の夢もあってさ、まだまだ高見の見物できないけど。
やっぱり、根っから貧乏性なんだ、私。」
「俺は、お前のそういう一生懸命なところ、結構好きだったぜ。
これからは、もう貧乏と無縁の生活になっちまうな。
お前の親父さん、小躍りして喜んでるだろう? ふっ。」
美作さんがうちの両親のもとへ挨拶に来たとき、確かにパパとママは台所で小躍りして喜んでいた。
美作さんに『お義父さん!』と呼ばれ、浮かれて調子に乗ったパパは、駄洒落連発、その上、踊りだしたから恥ずかしかった。
亜門とは、価値観が似ていてそのままの私でずっと楽だったんだ。
「亜門には、なんでもお見通しだったね。」
「だてに年を食っちゃいねえからな。」
「じゃあ質問、私は今、何をして欲しいと思っているでしょうか?」
私の瞳を覗き込んだ亜門の瞳が黒く輝き、笑顔が零れ落ちた。
ふわっ・・・・麝香の香りに包まれた。
「これだろ?」
その贅肉の無い身軽な動きで腕を広げ、私の落ち着く大好きなハグをしてくれた。
「正解。どうして分かったの?」
「理由なんかない・・な・・・。きれいな花嫁さんと俺がしたかったから。」
今まで、色んな思いを受け止めてくれた亜門の胸に惜別の思いを込めて囁いた。
「本当にありがとう・・・。幸せになるね。」
俺たちは、夕方行われる披露宴会場ならびに今晩の宿泊施設であるパリの名門ホテル ル・ムーリスの豪華な廊下を進み、つくしのいる部屋の前へ来た。
当然、俺が一番にウェディング姿の牧野を見るものだと思っていたら、口々に反論する仲間達に開いた口が塞がらない。
「あきら、お前はこれからずっと一緒なんだから、これぐらい譲れ!」
「そうだよ、つくしちゃんの独身最後なんだから、僕が独占したいくらいだね!」
「誰のお陰で牧野とこうなれたと思ってるんだ? 感謝の気持ちを見せろぃ!!」
「あきら、俺に牧野と二人きりで話す時間、10分ちょうだい・・・。」
俺も含めてドア前で大の大人がジャンケン真剣勝負。
結局、勝った和也がドアを開けた。
「つくしちゃ・・ん・・・。」
突っ立ったままの動かない和也をよけて、皆でどやどや入っていった。
視界に入ったのは、revolution’sの男たちに囲まれた俺の愛しい牧野。
何??亜門と近いじゃないか・・・。
俺より亜門たちの方が先に牧野を見やがって、くそっ・・・。
男と言うのは、つくづく独占欲が強い生き物なのだと確信する。
心中穏やかではないが、俺の親友達が代弁するように文句を言い始めたから、収めようとする気持ちが働く。
「国沢~、牧野から少し離れろ!!なんで、お前らが先に牧野を見てんだよ?!」
「そうだよ~、折角、僕が一番につくしちゃんを見れると思ったのに・・・」
「おいおい~、男だらけじゃねえか・・・」
「・・近い・・・」
亜門達が、気を利かせて牧野がよく見えるように脇へよってくれた。
牧野は想像以上にきれいで輝かんばかりの美しさを放っていた。
目が釘付けになると言うのはいい得て妙だが、今の俺は視界から入ってくる刺激が強すぎて、手と足だけ何万光年先に持っていかれたかのように感じる。
「ま~きの。 すっごくきれい・・・。」
俺より一歩早く前に行く笑顔の類。
それに続く司。 和也もしかり・・・。
牧野の花嫁姿に興奮していて、新郎の気持ちに気付く奴はいない。
総二郎だけが、俺の肩をたたいてウインクするが、牧野の方へ行ってしまった。
牧野を中心に親友達が小突きながらも笑顔を向けて笑いあっている姿を見ると、俺の大切な奴らがああして笑ってくれているのが何より嬉しくてなんだか頬が緩む。
でも、待て、類、頬を触るな! そうだ、司、怒ってくれ!
総二郎、鼻の下伸ばしすぎ! 和也は・・・カメラを出している?
そこへ、バンドの奴らが俺に祝辞を述べに来て、一人づつ部屋を後にしていく。
最後に亜門が、俺の手をつかんで目を見据えて言う。
「二人で、幸せになれ!
あいつは、勇気を出してお前の世界へ渡って行ったんだから、後悔させるなよ。」
その言葉は娘を嫁に出す父親のように重く、身が引き締まる。
「はい。」
亜門に俺の覚悟がちゃんと届くよう真摯に返事を返した。
つづく
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