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選んでくれてありがとう

美作あきらx牧野つくし

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選んでくれてありがとう 41

41.

「ハ、ハ、ハ、ハ、ハアー ♪ ハ、ハ、ハ、ハ、ハアー ♪ 」
「(ピアノの音階を弾き続けながら)ハイ、つくしちゃん、もうちょっと行ってみよう。」
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハアー ♪ ハ、ハ、ハ、ハ、ハアー ♪ 」
「いいねえ。今日は2音上まで出たじゃない。じゃ、今日はこのへんでレッスンはおしまい。」

「あの、満先生、これ見てもらえませんか?」


私は、教わった知識を総動員して作ってきた曲を手渡した。

主旋律のみのシンプルなニ長調の曲。
軽井沢の別荘で美作さんにもらったミヤコワスレのみずみずしさを頭に浮かべながら作ってみたもの。

音符の基本をしっかり教わると、意外と簡単に楽譜に落とせるもので、出来たときはすごく嬉しかった。
満先生は2・3箇所ペンで訂正をササッと加え、色々教えてくれた。

「つくしちゃんが書いたのぉ?メロディーが優しい感じでいいね。技術的なことだけど、この音符は繋げる時、こうして・・・」


作曲といっても段取りが色々あって、曲が演奏されるまでにメロディーには様々な肉付けがされる。
編曲となると、楽器の知識だけでなく、センスが不可欠なわけで、簡単に出来るもんじゃない。
メロディーを生かすも殺すもアレンジ技にかかっている。
幸い、Revolution’sにはアレンジ上手な甲斐さんがいるから、素敵な曲がいっぱい生まれているのだ。

「歌を作って、歌ったりしてるんで、楽譜に落とすとどうなるのかな?・・・って思って。」
「もう少し、ちゃんと勉強してみる?いつでも見てあげるからさ。」
「はい、満先生、是非。」

いつか自分で作った曲をrevolution’sで歌えればいい。
思いを楽譜に載せて誰かに届けれるなんて、夢みたい・・・。

やがて、コンサートの日がやってきた。

天気は晴れ。
収容人数900人。チケットは完売。
警備のスタッフから事務所のスタッフまで多くの人の力を借りて今日の日を迎えた。

何度も練習して歌ってきた。
後は間違えないように思い切り歌って届けるだけ。

舞台へ出る間際はいつも緊張するけど、今日は特別緊張する。
舞台袖でメンバーそろって気合をいれて、いざ舞台へ。

ライトが迷路のようにスクランブルし始め、修のカウントを合図にいっせいに大きな音が流れ、場内を沸かせた。
ライトは焦点を見つけたようにrevolution’sを浮かび上がらせる。

何度も何度も練習した曲が私の体の一部のように、自然と口から出てくる。

私自身が楽器になって、歌詞をつむぎだし歌う。
目の前の観客に伝えたくて、思いをこめて歌う。
曲のメッセージを声帯を使って空間に飛ばせていく。

心も体もオープンに、五感を使って感じて欲しい・・・私たちの音を。
・・・ねえ、届いてる?感じてる?耳を開いて聞いて欲しい。

コンサート会場を満たす私たちの音に観客が揺れていた。
私の心も震えだし、歌姫に変身していく。
歌うために存在する楽器となって、スポットライトの明かりに照らされる場所へ、私の音も届けたい。

全13曲を演奏しきり、アンコールを迎える。

絶叫に近い女の子達の“あもん~”“ハルさ~ん”という嬌声。
観客の割れんばかりの歓喜の声がなによりも嬉しかった。
観客みんなに感謝の気持ちをこめて歌う。
今、ここに立てる運命に感謝し止まない。

舞台が無事終了し、楽屋へ戻る廊下でもまだ興奮は冷めないメンバー。

「つくしちゃん、今日のノリよかったぜ!」
音に関しては口うるさいハルが、めずらしく私を褒めてくれた。

「ハルもかっこよかったよ!!」
「あったりめーだ!俺よりカッコいいギタリストいたら、教えろ!」
「はいはい、居ません!!」



楽屋へ戻り着替えをし終わった頃、ちょうど、美作さんと西門さんと桜子と有紀が顔をのぞかせた。

日ごろの感謝をこめて、皆にチケットを渡しておいたので、こうして見に来てくれたのだ。
みんなは口々に“すごく良かった~、いいコンサートだった”って言ってくれ、曲の感想、トークの感想、照明の感想といろいろ聞かせてくれた。


「じゃ、そろそろ、いくわ。またあとでな。」
美作さんは帰ろうとする。

「え?帰っちゃうの?」
「この後、お前、色々あるだろ?」

打ち上げのことを言ってくれてるのだろうけど、なんだか別れるのが寂しい。
こうして大人の気遣いをしてくれて、仕事をやりやすくしてくれるのだけど。
そんな美作さんを見ると、つい甘えたくなる。
『わがままだけど、一緒に居たい。』って、口から出そうになる。

人に甘えることなんて知らなかった私が、美作さんに教えてもらった感情だ。

「牧野、飲みすぎるなよ!」と肩をポンとたたいて、皆と一緒に行ってしまった。

楽屋にポツンと歌姫の私が残された。

つづく

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