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10.
2週間のフランス出張から戻って、帰りに牧野のアパートへ立ち寄った。
けれど、もぬけの殻。
ポストを見ると、郵便局あての住所変更につき転送願いの葉書が入っていた。
そこには、牧野の几帳面な字で新しい住所が書かれている。
新住所はあきらん家?
俺は花沢物産ジュニアとして正式入社してから、学生時代と一転し昼寝どころか多忙を極めている。
フランスに拠点を置く花沢物産にとって、欧州での修行は最重要で親父から何度も渡仏を促され、そうなれば早々日本へ戻れないだろう。
その前に、どうしてもきちんと牧野に思いを伝えたいと思っている。
俺は、すぐにあきらん家へむかった。
「おっ、類、久しぶりだな。」
「うん、さっきフランスから帰ってきたばっかし。」
「で、どうした急に?」
「あきら、わかってるんでしょ。俺の来た理由。」
「あぁ、牧野はいまここにいる。」
急に事が運んだ理由を、簡潔に話そうとするあきら。
確かに、国沢亜門のところに住まわせるより安心だけど、やっぱりおもしろくない。
牧野に会いにきたんだから、まずは会わせてもらう。
トントン・・・
「まきの、いる?」
ドアが開き牧野が大きな目をさらに大きくさせて、俺を見上げた。
「花沢類?」
「引越し騒動、急だったね。あきらから聞いた。」
「美作さんには悪いんだけど、しばらく甘えさせてもらおうと思って。忙しくてバイト全然いれらんないしさ。」
まきのの部屋は、アパートより広くて、白いレースのカーテンがユラユラ揺れるのが見えた。
「そういえば、まきの、もうじき卒業だね。お祝いしなきゃ。」
「やっと卒業見込みがついて、ほっとしたところだよー。」
「よく頑張ったと思うよ。お祝い何がいい?」
「いいよ。花沢類には、お世話になってばかりだったから。」とクスッ笑う牧野。
牧野はきれいになったし、実際、どんどん離れて知らない世界へ羽ばたいていこうとしている。
頑張るまきのを応援したいけど、あのかわいい笑顔をみんなに向けちゃうのは歓迎できない。
「まきの、プロム出るの?パートナーに立候補したいんだけど、ダメ?」
「プロム?何にも考えてなかったよ。」
「じゃ、今から考えて。」
俺はそう言って、机の上の楽譜のピースを手に取って眺めた。
つづく
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