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11.
代官山のバーで久しぶりに総二郎と会う約束をした。
「総二郎、お前も忙しそうだな。」
「あぁ、西門流の時期家元ともなると、茶のことだけじゃダメなんだとよ。
全国にある支部をまとめていくのに、今は身を粉にしてるぜ。
だいだい、名前と顔おぼえるだけでも大変なんだぜ。」
「だろうな。亭主を勤めはじめてからだと、もう結構な人数と会ってんだろ。
向こうから挨拶されて、家元がポカンとしてたら、示しがつかねえもんな。」
「あきら、おまえだってそんなもんだろ。」
「あぁ、今回大きなプロジェクトをまかされて、毎晩遅くまで仕事漬けさ。」
「もしかして、誰かさんの為にしてんの?」
「え?」
「長年のつきあい、何だと思ってんだ?
聞いたぞ、牧野、あきらん家にいるらしいな。」
総二郎は、意味深な目つきで言う。
「俺は、ただ、またあいつが傷つくのを見たくないだけだ。」
「お前のそのオプラートにつつんだセリフ、はっきり言って愛の言葉に聞こえるぞ、認めちまえよ。
これから、どうするつもり?類だって、いるだろ?
あきらも類も大事なダチだから、俺はどっちの応援もするつもりだけど。」
「牧野が大事だ。でもな、牧野を女として好きなんだろうか?って考える。」
つぶやくように言った。
「お前、もしかして、牧野を好きなくせに抱きたいって思ったこと無いの?」
「無い・・・な。」
「プッ。
あいつ、色気ゼロ牧野だからな~。
男を知れば、牧野だって色気づくだろうし、俺が一肌脱ごうか?」
「おい! 」
俺は総二郎を睨みつけた。
俺たちは、お互いの奮闘を景気づけ別れた。
リモに乗り込むなり深く眠ってしまったようで、運転手の山田に起こされるまで、到着したことに気付かなかった。
神経質な俺が、崩れるように車中で寝入ったことは小学生の時以来。
それだけ、疲れがたまってきたのか。
自室に入る前に牧野の部屋のドアを眺めるのが、癖になっていた。
ふと、妹達の部屋から明かりが漏れているのに気付く。
『こんな遅くに・・・。』
部屋を覗くと、ベッドに寝ている絵夢と芽夢、それにベッドの端に頭を乗せスースー眠る牧野がいた。
牧野の手元には、アンデルセンの飛び出す絵本。
牧野の手から本をそっと離した。
「み、みまさかさん~?」と眠そうに牧野が目をしょぼしょぼさせながら言う。
「牧野、起こしちまったか?ごめん。よく寝ていたのにな。」
「あっそうか、私、本読んでたら眠くなって、ねちゃってたんだ・・・。美作さん、今帰ったところ?」
「今日はめずらしく、総二郎と会ってた。あいつ、時期家元の仕事で全国を飛びまわってるぜ。」
「ジュニアも大変だね。」
小さく微笑み返す牧野の顔に見入っていた。
こいつの笑みは、疲れを癒す特効薬か、とたんに全身の筋肉が緩み始める。
あわてて妹達の布団をかけ直し、二人の額にキスを落とす。
「美作さんって、本当にいいお兄さんだね。私にも肩をポンっとたたいて励ましてくれたりするでしょう?
あれ、すっごい安心するんだよ~。
うちは、パパがあんな感じで、頼りないでしょ?愛情はたっぷりだけど、大黒柱キャラじゃないからね。
パパ代わりでもないけど、美作さんには甘えてしまうな、ありがとうね。」
「おい、お父さん代わりかよ・・・せめて、お兄さんだろ?」
「あー、ごめん。とにかく、感謝してるんだ。」
つづく
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