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9.
Trururururururururu・・・・・
「牧野?久しぶりだな。」
「美作さん!元気?ライブ、見に来てよね。結構いい感じなんだから。」
「おう、もちろん。突然だが、昼の時間ひまか?」
「うん。2時頃までならいいよ。」
「良かった。じゃ、昼飯一緒に食おうぜ。」
まもなく、アパートの前に黒塗りのベンツが止まって、中から美作さんが颯爽と現れた。
美作さんは濃紺のスラックスに淡いイエローのドレスシャツ姿。
そのまま紳士服のCM撮りに行けそうで、この安アパートには不釣合いだ。
「早く降りて来い。行くぞ。」
車内のシートカバーはきちんと糊付けされて、乗り込むときにサーッと丈夫な綿の音をたてた。
「牧野、元気そうだな。」
美作さんがこちらを向いて、穏やかに微笑みながら言う。
煌びやかなステージに立つようになり、生活が様変わり、想像すらしたことなかった刺激的な日々が続いていた。
メイクと衣装に身を包み、スポットライトの中で表現する自分は自分で無いような錯覚をおぼえる時もあった。
目の前で微笑んでくれる美作さんはとても穏やかなまま、なんだか懐かしく嬉しくなる。
車は表参道のメキシコ料理店前で止まり、美作さんにエスコートされ個室に通された。
「ここは、去年オープンしたうちの会社系列の店なんだ。メキシコ料理って、意外とヘルシーなんだぞ。
日本人好みの味に変えてるから、なんでも食えると思うけど。」
「へえー、美作さんとこのお店なんだ。メキシコのワインボトルがいっぱい並んでるね。ここだけ日本じゃないみたい。」
食事はどれも本当においしかった。
タコスは全然辛くなくて平気だったし、ワカモーレをトルティア・チップスにたっぷりつけてたくさんいただいた。
「牧野のステージ、すごく好評らしいな。いつ見れるかな。」
「そうだよ、美作さん、早く見に来てよ。
こないだ音楽雑誌に紹介されてね、"彗星のごとくあらわれた実力派バンド!"って紹介されてたんだよ。
もう、びっくりでしょ?!」
「すごいじゃないか。」
「でしょー?!彗星だって、ふふっ。」
「牧野、これ、なかなか見に行けてないから、せめてもの応援に。」
「何?あけていい?」
中は、DKNYの大きめのサングラスだった。
「これから顔が売れてきたら、たくさん要るだろうと思ってな。」
私が持っているサングラスって、小学校のときに海で買ってもらったプラスチックの安いやつだけだ。
当時、こんなブランドものは、すごいマダムか人気芸能人がするもんだと思っていた。
レコードデビューしたらグラサンがはずせなくなっちゃうんだろうか?
そんなこと、あんまり考えてなくて背筋が寒くなる。
「美作さん、私ちょっと怖くなってきたよ。いつも変装しなきゃならない生活になるのかな?」
「そんなの芸能人なんだから当たり前だろ。何かを得たら、何かを失うと言うだろ?」
「そうそう、家もさ、セキュリティーがあるところじゃないといけないらしくて、引っ越さないとだめなんだって。当分、亜門の家で暮らすことになるかもしんない・・・。」
「は?なんであいつん家なんだよ?あいつは、男だろ?」
「そ、それは、大丈夫だと思うよ。無理には襲わないって言ってたし・・・。」とだんだん声が小さくなる。
「お、襲わない?お前なあ・・・」といって大きなため息をつかれた。
「男と女が一緒に暮らして、絶対って事はあり得ないもんだ。なあ、牧野、だったらうちへ来い。
うちなら、セキュリティーはしっかりしているし、母親も妹達も大歓迎すると思うし、牧野だって安心だろ?」
「そりゃあ、美作さんちは居心地いいけど、そんなの図々しすぎるよ。」
「この際遠慮するな。家賃を払ってくれてもいいから、うちへ来い。俺が安心するから。なんなら、妹達の宿題を手伝ってもらう仕事を理由にってどう?」
「そんなのでいい訳ないでしょうが。」
「いいんだ。じゃ、決まりな!」
「でも・・・。」
「これ以上この話をしていると、また話がややこしくなる。
今、ここであいつらに連絡してみようか?」
美作さんは、言葉通り携帯を取り出し話をし始めた。
「牧野、やっぱりあいつらすごい喜んでるぜ。」
ウインクしながら、そう言う美作さん。
そういうわけで、あれよあれよと言う間に、美作さん家にしばらくお世話になることになってしまったのだ。
できるだけ早く敷金と当面の生活費を稼いで、セキュリティーがしっかりしたマンションへ移るつもりで、それまで、有難く申し出を受けて、というより、そこんところは事後話だけど、甘えることにした。
美作さんの言葉に甘えさせてもらおう!
そして、あっという間に引越しを済ませ美作邸での生活が始まった。
つづく
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