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16.
今日は、朝からMCレコード会社の会議室で打ち合わせだ。
「こちらが出来上がったCDジャケットですよ。」マネージャーの後藤田さんが興奮ぎみに話す。
「「「おっ、いいじゃん。」」」
「デビュー曲がCMで流れ出すのは発売日前日12時予定です。
大型レコード店にはrevolution'sコーナーを設置していただくように手配していまして、購入者には抽選でポスターを配布します。」
「それにしても、このつくしちゃん、めっちゃきれくねえ?」とギターのハル。
「ポスターのつくしちゃんの瞳、力感じるよなー。」とキーボードの甲斐さん。
ドラムの修が、私の肩に手をかけ、「俺は、この華奢な肩幅がいいなーって・・・。」
「もう、みんな、やめてよね!ハアー。」
男所帯に紅一点、しかも一番年下だからマスコット的キャラになっていて、好きなように言われてる。
修の手を払いながら溜息だ。
「でも、つくしさんはお化粧して衣装着ると、なんだか人が変わるっていうか、近寄りがたい美しさをかもし出すんですよね。
プロモーションビデオが出来上がるのが楽しみです。」マネージャーの後藤田さんが言う。
「歌は一番大事だ。けど、ビジョアルはバンドにとっては、武器になるんだぜ。つくし、もう少し貪欲に自分を磨いてみろよ。」と亜門。
「磨くってったって、know howが無いもん。」
「大丈夫ですよ。つくしさん。これからは、プロのスタイリストさんやメイクアップアーティストと接する機会が多くなりますから、少しづつ吸収していけばいいんじゃないですか?」と後藤田さん。
昨夜、花沢類に頼りすぎだったと反省したばかり、変われるチャンスがすぐ目の前に横たわっているのだ。
「よし、やってやろうじゃん。」
その頃、S病院では・・・
「あっ、支社長、お目覚めになりましたか?ご気分はいかがです?」
「・・・。里美くん、ここ病院?」
「はい。支社長は男に怪我を負わされてここに運ばれました。幸い、傷は浅いので目が覚めれば、問診後、帰宅してよろしいそうですが、念のため、もう一日入院されたほうがよろしいかと思います。」
「あぁ・・・。」
なんだか、随分深い眠りについていた気がする。
たった一日しか眠っていないというのに、まだ、頭がぼーっとして、体内時計がまったく働かない。
「昨日、西門様・花沢様、それから牧野様がかけつけてくださいました。」
「え?牧野も来たの?」
「はい、花沢様とご一緒のところに連絡が入ったみたいで、おそろいでお見えになりました。」
「そうか・・・。」俺はもう一度目を閉じた。
牧野への思いをどうするか決められず、そんな自分にイラついていた。
曇天のようなやるせない気持ちだったんだ。
現実から目を反らすように、固く目を閉じ続けた。
「支社長、そんなにつらそうなお顔をなさらないで・・・。」
突然、里美は俺の手を取り、自分の胸のふくらみの上に引き寄せた。
「ッ・・・?」
「私、たとえ、支社長が誰を思っていらしてもかまいません。そばにいて、慰めてさしあげたい・・・。」
ボーッとする不透明な霧の中で、全てがまだ夢の中だと言われればそう思えた。
振りほどこうにも、右手は機能を失ったかのように、思いに反しその柔らかな感触にすがりつこうとする。
さらに、里美の手が俺の手を包み込むように膨らみの上で動き始める。
柔らかな母性の象徴である温もりは、眠っていた俺の身体の中心部をいきなり目覚めさせ、血液が一箇所へ流れ込むのと同時に全細胞をたたき起こした。
里美が俺の胸元に顔を埋め、その唇が腹に触れた時、おれの意識は完全に覚醒した。
「止めろ、美里!」
トントン ノックする音。
「は、はい。」里美が急いで、自分の服を整えた。
「美作さん、目を覚まされましたか?」
担当医が来たようだ。
「はい、先ほど覚めたばかりです。まだ、ボーッとしていますが・・・。」
「傷のほうは、全治一週間程度でしょう。気分が悪くなければ、自宅で休まれてもかまいませんが、いかがしますか?」
「あっ、もうしばら・・・」里美が俺に代わって答えるのをさえぎった。
「お昼すぎには、退院したいと思います。」
傷口を消毒してもらうと、それからさらに少し眠った。
つづく
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