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21.
非常階段の扉をあける。
唯一の安らぎだった場所は、早春の香りを漂わせ出迎えてくれた。
時間が瞬時に巻き戻され、甘酸っぱいそよ風の記憶が鼻先を掠める。
卒業式。
今日という日を迎えられたことへ感謝で胸がいっぱいだ。
道明寺とは色々あったけど、分厚い殻を被って隠れていた私を180度変えてくれたのも事実。
目を瞑ると走馬灯のように蘇るあいつとのけたたましい英徳時代。
思いがつながっていれば、一緒にいれると思ってた高校生の未熟な二人だった。
幸せな未来だけを信じていたあいつのこと、私が一番よく知ってるから。
あんたがいい男だったこと、誰よりも知ってるからね。
道明寺、これから私たち、頑張ってきたことを何一つ無駄にしないように生きていこうね。
空を見上げ、この場所でこの空に誓った。
ガタン
「あっ、やっぱりここにいた!」
「桜子!滋さん!西門さんも!」
「つくし~、卒業おめでとう!」滋さんの強烈ハグに動けない。
「おめでとうございます!先輩!」
「牧野、おめでとう。」西門さんが、涼しげに微笑みながら、大きな花束をくれた。
「わざわざ、みんな来てくれたのぅ?」
あなた達と出会えたのも、この栄徳に来たからだと、今日は感慨深くなる。
この想い出いっぱいの学校から巣立つと思うと、あんなに卒業をまちのぞんでいたくせ、頬に涙が伝い出す。
「つくし~ぃ。」滋さんも、伝染したのか一緒に泣き出して、二人して抱き合い声を出して泣いた。
「牧野、大河原、お前らの涙腺、壊れたんか?いい加減泣き止め。」
「そうですよ、先輩。これからプロムなんですから、真っ赤な目してたら、花沢さんに心配かけますよ。」
「うん。泣き止まないとね・・・。」
あたたかな春のような温かさが、そこに感じられる気がした。
美作邸にて
卒業式から戻ると、エステシャン、メイクアップ・アーティスト等のプロの手によって、あれよあれよという間にドレスアップされ、花沢類を待つだけとなった。
「うわぁ~、つくしちゃん、すごく素敵!芽夢、絵夢、来て御覧なさい!」美咲ママが双子ちゃんを呼ぶ。
「「つくしお姉ちゃま、きれ~い。」」
二人は、つくしをボーっと見上げている。
「ホントきれいよね~、あきらちゃんにも見せてあげたかったけど、今日も遅いのかしら・・・。類くんのびっくりした顔が楽しみね。つくしちゃん。」
「奥様、花沢様がお見えになりました。」
「ここへお通ししてちょうだい。」
俺は急いで仕事を片付け、あきらの家まで行った。
使用人に通された部屋には、俺の選んだサーモンピンクのドレスに身を包んだまきのが立っていて、思わず目を奪われる。
軽いシルクが何枚か重なっているスカートのすそから伸びる細い二本の脚。
透けるように白い鎖骨あたりがU字型にカットされたドレスと溶け合って、艶やかで女らしい空気を感じさせる。
髪の毛はフンワリ巻きあげられて、後れ毛が心まで捉えて離さない。
そんなまきのに声をかけるのも忘れ、見入った。
「花沢類?・・・・大丈夫?」
まきのの声が聞こえ、我に返った。
「あっごめん。まきのがあんまりきれいだから、心臓が止まるかと思った。」
「ホント?花沢類を落胆させちゃったかと心配したじゃない。」
まきのは、安心したようにとろけるような笑顔をむけた。
まきの、それダメ。
それは、メガトン級の武器だね。
あんまり俺を翻弄しないで。
俺は言葉を飲み込んで、まきのの手を恭しくとった。
「さぁ、まきの、行こう!」
つづく
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