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22.
今日の花沢類は、楽礼装。
黒のスーツに光沢あるカマーバンドと蝶ネクタイは華やかな地模様入りで、今まで見た花沢類の中で一番フォーマルな装いだ。
どんな格好をしても素敵だけれど今日は格別、大人っぽくて男前が上がってる。
花沢物産のジュニアとして戦ってるんだもの、4年前のプロムと比べても、胸板は分厚くずっと貫禄ついて見えるから、横にいるのが私で申し訳ないくらいだ。
けど、今さらどうにもならない。
「何?」
と私の視線に気付いた花沢類が大好きなビー玉の瞳を傾け聞いてきた。
それだけでドキドキドキドキ・・・・うっ、心臓よ静まれ!!
「は、花沢類、今日、よろしく・・・。」視線を避けながらぺこりと頭を下げた。
「うん。こちらこそ。」とさっと私の手をとってくれた。
英徳大学卒業プロム会場に到着し、私は花沢類にエスコートされながら会場に入っていった。
周りにいた人達は、私たちを見て動きを止め、目で追い続ける。
そりゃ、F4の一番人気花沢類がこんな王子様みたいな格好で現れたら、どんな女の子だってポーッとするよね・・・わかるわかる・・・。
でも、隣に立つ私を値踏みするのはやめて欲しい。
あー、透明人間になれればいいのに。
花沢類は自分に注目する好奇のまなざしを気にすることなく、ずんずん進んでいく。
ホールに入ってしばらくすると、浅井・鮎原・山野がこちらを見ているのに気付いた。
大学入学後は、さすがにあからさまないじめはなかったものの、F4と一緒に行動することもしばしばだった私を良く思っていないのは感じていた。
色々あったけど、あんたたちともこれでお別れね。
花沢類が飲み物を取ってくるといって席を空けている間、和也君が声をかけてくれた。
「つくしちゃ~ん。」
「あっ、和也君。うわ、今日は、カッコいいね!」
売れない演歌歌手みたいだった和也君が今日はシックなスーツ姿できめている。
和也君の横には、キュートな女の子が立っていて、私を見ていた。
「つくしちゃんに紹介するよ。こちら僕のパートナーの由貴子ちゃん。」
「「はじめまして・・・。」」
「今日のスーツは、由貴子ちゃんが選んでくれたんだ。どうだい?結構似合ってるでしょ?」
「うん。こんな男っぽい和也君初めて見たよ。よかったねー。由貴子さん、和也君ってちょっと頼りないけど、本当に友達思いのいい奴だからよろしくね・・・。」
由貴子さんは、遠慮がちに微笑んで聞いていた。
「///つくしちゃん、僕はずっと前から男の中の男だい!・・////」顔を赤くして和也君が照れている。
「あれ、花沢さんは?」と和也君が言ったとき、ちょうど花沢類が飲み物を持って戻ってきて、 オレンジジュースの入ったグラスを手渡してくれた。
「ありがとう。花沢類、和也君が彼女連れてきてるんだよ。」
「いや、まだ、か・かのじょじゃないんだけどさ・・・」と照れながら答える和也君の横で由貴子ちゃんがポーっと花沢類のことを見つめていた。
それを見た和也君は、面白くない様子。
「じゃあね、またね、つくしちゃん。」と言って、とっとと由貴子ちゃんとどっかへ行ってしまった。
「うふ、和也君が妬いてたね・・・。」
「そうみたいだね。」と花沢類。
「会場の女の子達みんな花沢類のこと見るから、相手の男の子達から花沢類にらまれるんじゃない?」
「そう?」
「そうだよ。私だって、花沢類のせいで女の子達から痛い視線を浴びてるんだからね。」
「まきの、それは、まきののせいだよ。」
「まさか・・・。」
「今日のまきのは、本当にきれい。パートナーとして、鼻が高いよ。
それに実は俺、心臓ドキドキしっぱなし・・・クスッ、男達がまきの見るのに妬いちゃってるよ。
自分のパートナーだけ見てろって怒鳴りたいんけど、いい?」
思ってもみなかったことを言う花沢類の腕を、照れ隠しでポンと叩こうとした。
「はあ?冗談いわないでよ、まったく。」
けれど逆に花沢類は、私のその手をつかみ、ぐっと顔を寄せて今にも鼻がくっつきそうな位置で止まり、じーっと私の瞳を覗き込んできた。
「うわっ、近・・・は・はなざわるい・・・?」
「この目が嘘ついてると思う?」
近くで見ると、透き通った紅茶色の瞳に吸い込まれそうで息が出来なくなる。
時計の針がカチカチ過ぎていく音が聞こえたかと思うと、それは自分の心臓の鼓動でだんだん速度を増していく。
顔を背けるとようやく花沢類が離れ、息を吹き返した魚のように必死になって呼吸をする羽目になる。
せっかくのパーティー、バフェで飲食しながらパーティーを楽しみ、心に留めたいと思う。
いつもそばにいて、何気ない気遣いをしてくれる花沢類。
私の心の友でありよき理解者。
卒業の日を迎えた今、穏やかに思い出せる日々。
道明寺に赤札貼られて、全校生徒からいじめにあった時、身を呈してかぱってくれた。
「どうでもいい、他人のことは・・・」て、冷めた目つきでいるのに、廊下でレイプされかかった私を拾うように助けてくれたり、ゴミだらけの私を抱き上げてくれた。
冷たい態度と裏腹なやさしいバイオリンの音色に、私は惹かれ始めたんだ。
「まきの、踊ろう。」花沢類が手を差し出す。
花沢類の手をとり、セントラルに歩みだすと、みんなの注目を一気に浴びた。
「大丈夫だよ。」と私の緊張をほぐしてくれる大好きな微笑み。
「ステップ、間違えたらごめんね。」
道明寺との将来を考えて、英語やダンス・マナーは習ったのでなんとかできるけど、こんな視線を浴びて踊るのは緊張する。
花沢類は自分は得意じゃないっていっても、上手にリードしてくれてる。
顔を上げると、花沢類は私を見つめていて、自ずと見つめある形になる。
花沢類?
今、道明寺の島の時と同じ目してるよ、何故?
どうして? さびしそうに、放っとけなくなるくらい悲しそうな、吸い込まれそうなそんな目で見ないで。
何?
胸の奥が痛いよ・・・花沢類。
私は・・・戻れないのわかってるよね?応えられないのわかってくれてるでしょ。
あの砂浜ででどうなってもいいって思ったのは昔の話。
今の私は抱きしめ返して上げられないよ。
これは錯覚?見間違いなの?なんでまた、そんな目で見るの?花沢類・・・。
戸惑うよ、花沢類?
花沢類は私の一部だって言ったら、逆にまきのは俺の一部だって言ってくれたよね。
男と女の関係でなくソウルメイトでいられたら、ずっと良い関係が続くんだよね。
嬉しかったのに、どうして?
非常階段から卒業して、厳しい社会の荒波に漕ぎ出す日。
不安が無いわけじゃないけど、とにかくやってみる事に決めたんだ。
上手くいかなくて泣きたい時もあるかも知れないけど、何も持たない自分でも踏ん張って走ることに決めた。
頑張ってと・・・その時、ふと、美作さんの微笑んだ顔が浮かんだ。
どこかでずっと私を心配し、助け続けてくれた人の存在感を意識した。
「まきの、考え事?俺のことじゃないでしょ?」
「ええ?」
やだ、見られてたみたいじゃん。
それから、何曲か踊った。
「やっぱり、行っとくでしょ?」
「もちろん。」
私達はホールを抜け出し、静まり返った校舎の廊下をあの場所まで足早に進んでいった。
つづく
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