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25.
デビュー後、対外的な売り込みで事務所に行ったり、業界用語を学んだり、時にはテレビで見たことのある芸能人とすれ違ったりして、毎日が新鮮であっという間に半月が過ぎた。
CM効果で順調に滑り出し、今日のライブチケットは即完売。
チケットが購入できずに会場に入れないファンの人たちが何人か出ていたらしい。
演奏が終ってもファンがなかなか帰ろうとしないので、アナウンスで速やかな退室を促していた。
ライブハウスでの演奏は何にも代えがたい一体感のような高揚感があるけれど、事務所は集客力のあるコンサート会場での演奏を増やしていく計画らしい。
「今日の打ち上げ、どこっすか?」とハルがマネージャーの後藤田さんに聞いた。
「あっ、まだ決めてないんですけど。何料理がいいでしょうかね。」
「じゃ、滋ちゃんが決めてあげる!」
「滋、みんなの意見を聞いてから決めるようにしろよ。」
大人の甲斐さんは滋さんに軽く注意をするけど、返事するより先にどこかに電話して予約をしているようだった。
滋さんは甲斐さんにべったりだ。
甲斐さんもそんな滋さんが可愛いらしくそばに置いていて、人前でも関係なく抱き合うのは目のやり場に困る。
お店は新しく出来たちょっといい感じのクラブみたいなところで、店の奥にあるVIP ROOMに通された。
黒皮のソファーがとてもやわらかくて気持ちいい、疲れた身体にほどよく返ってくる弾力性が良い。
ソファーの背中側から赤い間接照明が照らされ、どことなく宇宙船を思わせる店だ。
「ここは、うちの子会社が最近出したお店なの。
いい宣伝になるから、revolution'sを連れてきちゃいました~、エヘヘ。
ということで営業なので、今日は全部店のおごりです!
いいコックを引き抜いてきてるから、何でもおいしいよ。じゃんじゃん、食べて飲んでよ~。」
それを良いことに、皆は遠慮なく食べ物もたくさんオーダーし、乾杯の嵐だった。
デビューしてから今まで、何かと忙しかったスタッフを含めた私たちは、好調な船出を祝おうと無礼講で盛り上がった。
目の前にはキレイに盛り付けられたおいしそうな料理がいっぱい、皆が楽しく盛り上がる様子はさらにお酒をおいしくさせる。
「つくし、大丈夫か?」いつの間にか亜門が隣に座っていた。
「亜門~、もう社会人ですからねえ~、だいじょうぶ!」営業スマイルをつけて返事する。
「あいつら四六時中くっついてやがるけど、暑苦しくないのかね・・・?」亜門の目線をたどると、甲斐さんが滋さんの肩を抱き、お互いの空いてる腕をクロスして飲ませあいっこしてる。
「なにあれ?・・・・乱れてるよね。」
「乱れてる・・・か。つくしはしたくないよなあ、あんなの。」
「する訳ないじゃないのよ~、だいたい、なんであ~んなにこんがらがって飲まないといけないの~。
飲みたい量だけ自分で飲むの、私は!」
目の前の置かれた赤ワインのグラスを一気飲みした。
「あっ、お前、もう止め・・・と・・け。あー、全部飲んじゃった。」
亜門が眉毛をひくっと上げる。
亜門のその顔は道明寺のそれに似て、青筋立てる前には眉毛をひくっと上げてたことを思い出させ、少し感傷的な気分になった。
「亜門、やっぱり似てるよ。」ポツリとこぼす私。
「・・・・・。悪いな、顔変えれなくて。」
「こないだ雑誌見てたら、あいつ婚約したって。これでよかったんだって思ってるよ、私。
でもなんだったんだろうね、道明寺と私の恋愛は。亜門が言っていたように恋愛っていつか風化するものなのかな・・・?」
「まだ、お前の恋愛を語るのは早いんじゃないの?」
「でもさ、ちゃんと語れるような恋愛が絶対やってくるとは限らないもんね。
ねえ、亜門、景気づけに飛び切りのカクテル作ってくれない?」
「まだ、飲むのかよ。」
「宴はこれからだって~!」
気合を入れなおして叫んでみる。
亜門は、じゃちょっと待っとけと部屋を出て行った。
戻ってきた亜門の手には、明るいピンク色のキレイなカクテル。
そのカクテルを見た滋さん始め何人かのスタッフが、それは何だ?何だ?と口々に聞いてくる。
「アルコールは控えておいたぞ。これでも飲んどけ・・・。」
亜門から手渡されたグラスを眺めながら、飲んでみる。
「うわっ、おいしい。これ何?すごいきれいなピンク色だ~。」
「これは、What is loveっていう名前のカクテル。」
「恋愛って何?ってこと・・・。」
ピンク色の液体の向こうに何かあるのかもとのぞいても、やっぱり何も見えなくて一気に飲み干した。
「亜門、もう一杯!」
「それ以上は喉に悪い、飲みすぎ!」
亜門が作ってくれないのを聞きつけたスタッフの一人が、人数分持ってくるようオーダーしたようだ。
「オーダーしましたから、今日だけはね!」
そう言われて、亜門は黙っていたけど、私はさらにテンションが上がりとても楽しかった。
「うっ、吐きそう・・・。」
「だから飲みすぎだって言っただろ!」
時間は夜中の1時。
打ち上げがお開きになり、俺は酔いつぶれたつくしに手を焼いていた。
こんな時間に豪邸の美作家のベルを押すのも気がとがめ、とりあえず、つくしを俺の家で面倒見てやろうと思った。
部屋に入るとつくしのスカート・フックをはずし、ファスナーを途中まで下げた。
そしてそっと、ソファーに横たえると、つくしはすぐに赤ん坊のようにスースー寝息を立てて寝始める。
「知らんぞ、こんな無防備なやつ・・・。」
シャワーを浴びて戻ってくると、寝返りを打ったつくしの白い太ももが露わになっており、俺はあわててタオルケットを取りに行った。
水を飲んで一息つくと、つくしの横に座り寝顔を眺めた。
「私は道明寺が好き!」
あの時、強くてまっすぐな瞳には力が入ってたな。
ブスッと俺を突き射す勢いだった。
こんな細い身体のどこにあのエネルギーが宿っていたのだろう。
英徳のお嬢かと思ったら、家計を助けるためバイト三昧の勤労少女で、付き合ってた相手が道明寺財閥の息子。
体張って突っかかってたよなぁ・・・あの頃。
お前のおかげなんだよな。
俺はバンドに本腰を上げる気になったのは。
ガンバッテ生きてみるのも悪くないと思い始めたきっかけはお前だ。
いつか借りをかえさないと・・・ふっ。
Trururururururur・・・・・・trururururuururururu・・・・・・・・
つくしの携帯から呼び出し音が鳴りだし、起こすよりマシだと勝手に取り出しフリップを開いた。
携帯の表示は、“美作さん”となっていた。
プチッ
「はい。」
「・・・?誰だ、お前・・・」
つづく
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