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27.
美作さんは、オフィスのソファーで私のお弁当を全部食べてくれた。
この部屋に入った時から、里美さんの視線を感じる。
里美さんにとっては、目障りな差し入れなのかもしれない。
一方、そんな思いも知らず、「何だこれ?」と言いながらさっさと平らげていく美作さん。
美里さんの視線は慣れっこで、気にならないのか。
そんなモヤモヤを吹き飛ばしたくて、美作さんに話しかけた。
「美作さんが、いつも”黄色いの”って呼んでるのは、卵焼き。
お弁当にはお母さんの卵焼きと相場が決まってるんだから。
それくらい知らないと、社員さんに馬鹿にされちゃうよ。」
「いいんだよ。誰も俺が母親の手作り弁当を食ってたって想像しないだろうからさ。」
「確かに美咲ママが卵焼きを焼いてお弁当箱につめる姿は想像できないけど、一度もお母さんの手作り弁当って食べたこと無いの?」
「小さい頃、作ってくれたことあったな。半分が焼き菓子だったのを覚えてる。」
「プッ・・・。」それって、体に悪そう。
「ご馳走さん、また作ってくれよな。」
「お安い御用!」
お弁当を喜んで平らげてくれた美作さん。
とても嬉しそうな顔をするので、やっぱり来て良かった。
美作さんはじめF4たちは、小さい頃からコックさんに作ってもらった立派なお弁当ばかりで、家庭の味を知らないんだよね・・・晩御飯の残りなんてあり得なかったはずだ。
目の前に座る美作さんにはまた絶対作ってあげたいって思った。
F4皆、台所とリビングの匂いが混在した匂いなんて知らないし、ましてや、寝坊して作られた形の崩れた卵焼きなんて知らない。
私がしてあげれること、それは何だろう。
第一秘書が出発の時間だと言うので、私は急いでお弁当を片付け、頑張ってとエールをおくり足早に部屋を後にした。
すると、エレベーターホールで里美さんに呼び止められた。
「あの、実は私、以前から支社長をお慕いしています。
どんなに疲れていても優しく接してくださる支社長を尊敬もしております。
支社長の側でお役にたちたいだけなんです。
でも、迷惑をかけるつもりもありませんし、仕事も一生懸命させていただくつもりですから、どうか誤解しないで下さい。」
「え?ちょっと、意味がよくわからないのですが。
私に遠慮される必要ないんじゃないでしょうか?
里美さんが美作さんを好きなのは気付いてましたし、美作さんだってきっと里美さんのこと悪く思ってないはずです。」
「私、支社長にきっぱり振られたんですよ。 でも、その後も支社長は変わらず接してくださり、仕事もちゃんと見て下さって、何も変わらないんです。
だから今は、仕事を頑張って応えるつもりです。
牧野さんをお待ちになる支社長の様子、お見せしたかった・・・クスッ。
エレベーターで上がって来られるまで、嬉しそうにソワソワして、あんな支社長は初めて見ました。
支社長は牧野様が好きなんですね?
ですから、私と支社長の間のことを牧野様が誤解されると困ると思って。」
私はエレベーターの中で、里美さんが言ったことを反芻した。
きっぱり振られ、深い関係でもなんでもなく、そして、美作さんは私のことを好きなのだと言った。
美作さんは道明寺ともめている時も花沢類と和んでいる時も、着かず離れずやさしく見守ってくれていた人だ。
それは、兄弟のように自然で空気みたいな距離感だったし、美作さんが私を好きだなんて思ったことなんて一度もなかった。
まさか・・・そんなこと・・・。
そうよそうよ、そんなことはずあるわけないじゃない。
あの年上好みのプレイボーイが、まさか色気なしの私を恋愛対象にするなんて有り得ない。
その点は、さんざんからかわれてきた。
里美さんの思い違いだよきっと・・・。
その時、ふと美作さんと里美さんを直視できなかった瞬間を思い出した。
胸がギュッと詰まるような気持ち、まるでヤキモチみたいに嫌な気持ち。
は?ヤキモチ?
頭の中に、思い浮かんできた美作さんは、焦茶の瞳で私を見ている。
なんだか小犬のそれみたい。
そういえば、小さな頃、飼いたくても飼えなかったペットショップの仔犬に似てる。
頼りなげで、あどけなくて、誰もが口元を綻ばせるような可愛い瞳。
そうか、あの時の仔犬に似てるのだと気付く。
美作さんの柔らかな髪に手を置いて、優しく撫でてあげたらどんなだろう。
なんだか、仔犬をお世話したかった気持ちに似てるのが笑えるけども、体の中心にあるミルク色した本能は正直だ。
天下のF4の美作さんを小犬扱いするなんて、こんなこと知れたら怒られるよね。
昔の道明寺じゃあるまいし・・・。
仕事の方は順調だった。
Revolution'sが売れるにつれて、私は今までのように平気で出歩くことができなくなって、それは失ったものだ。
けれど、美作家にお世話になっているお陰で、生活用品を買いに行かなくて済んでいて、今となっては非常に有難い。
ある日、電車の中で、一人の女の子が私に気付き、あっという間に数が膨らんで、身動きとれなくなった時はさすがに怖かった。
メンバーの写真が有名雑誌に掲載されると、イケメン人気のあおりで一気に注目度があがった。
どこいくのもキャップやサングラスを着用するようになり、防衛本能か、外出には気が抜けない。
ハルは、外食してたら携帯カメラでバシバシ撮られて食べた気がしなかったと言っていたし、亜門なんて、突然ファンの女の子が道端で感激のあまり泣き出したらしく困ったと言っていた。
美作さんが言っていた“何かを得たら何かを失う”という事態はこれかと思った。
つづく
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