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30.
俺は、満月の夜を一生忘れないだろう。
何度思い返しても、夢だったのではないかと思うくらい、衝撃的で歓喜極まる夜だった。
牧野があの可愛らしい口から俺のことを好きだと言ってくれた。
全く、ビックリだ。
牧野に対してハッキリ見えた思いは、さっぱりしてすがすがしい気分ですらある。
俺は、牧野を女としてちゃんと好きで、愛していけると自覚した。
思い起こすと、牧野みたいな女が俺を満たしてくれるのでは?と気付いた時には、もう司の彼女であった牧野。
女への好意なんて容易くをコントロールできると思っていたのは、単にうぬぼれていたのだ。
司と破局後は、自然と類が牧野のすぐ側にいた。
類の気持ちは周知の事実で、昔の類を知る俺としては、感情豊かに笑えるようになったあいつを応援してやりたい気持ちがあった。
それに、あいつらの間には他の奴には踏み込めない聖域みたいなのがあって、例え、司でも壊すことができなかったものがある。
俺は、牧野を支えるポジションを遠慮しつつも、ずっと外堀にいて類のこぼしていった隙間を拾い集め、牧野を支えてきたつもりだ。
司とけんかしてる牧野の涙も類と笑っている牧野の笑顔も、友人として見守りながら、おれ自身はマダムとの愛欲の炎に身を置き、結局、本当に欲しいものから目を反らしていた。
ずっと俺の心が牧野に向かわないようにと、重い鎖をジャラジャラ巻いていたのだ。
用心に用心を重ねて、何重にも巻いていた。
その鎖を今ゆっくりはずしていく・・・。
今は、完全フリーの牧野。
牧野も俺が好きだといってくれた・・・・。
しかも、あいつからの告白だなんて信じられるか?
信じられない・・・よな・・・まったく。
困ったことに、あれから牧野の潤んだ瞳と胸の谷間が脳裏ちらついて、仕事中に赤面してしまう。
あの発展途上の胸にだぞ。
惚れるというのは、恐ろしい。
今日も会議中に思い出し、秘書が冷たい水を持ってこようとするのを断わった。
仮にもマダムキラーと異名を取り、女には超慣れっこの俺。
なのに、性に目覚めたばかりのまるで十代のやつに成り下がってしまった俺。
なあ、牧野は今何を思っている?
牧野に会いたい。
無性に声が聞きたくなって、牧野の番号を押す。
Trururururururururu・・・・trururururururururururu・・・・・・・・
「あっ、美作さん?」
「今、話せるか?」
「うん、平気。スタジオで新曲の音あわせしてるんだけど、休憩中だから・・・。」
「このところ、スタジオに缶詰みたいだな・・・。ちゃんと飯食ってるのか?」
「なんとかね・・・。朝は遅いから、時間をかけて美作さん家のおいしいご飯をたっぷりいただけてるから大丈夫・・・。」
弾む声が聞こえる。
「おまえ、朝は遅いらしいな・・・。」
「あっ、ごめん。今度早起きするから、一緒に朝ごはん食べよう!」
「いいよ、寝とけよ。今度の日曜、オフなんだ。牧野は?」
「夕方、練習が入ってるけど、たまには休みもらっちゃおうかな。」
「そうしてくれると、嬉しいよ。」
満月の夜、あんなに素直な言葉を口にする自分に心底驚いた。
そのまま出てきた裸の言葉が、愛の告白だったので、口にした後パニクッた。
私は美作さんが好きだったんだ・・・。
ずっとお兄さんのようだと思っていたし、時には、お父さんのような包容力を感じていた。
花沢類とは違った形で、美作さんは安心する存在として大きくなっていったように思う。
道明寺に身を焦がして散々回りに迷惑をかけ、また、初恋みたいな花沢類との恋を昇華したばかり。
そんな自分が美作さんを恋していいわけないって、無意識に制していたのだろうか、ちっとも気付かなかったよ。
こんなにあふれる思いをどうして気付かずにいることが出来たのだろうか不思議だ。
「俺は、ずっと前から好きだった・・・。」
耳元でささやかれ、嬉しかった。
すっぽり抱きしめられると、もう手には力が入らず、他人にすがりついて安心しきってる自分を新しく発見する。
どうか、このまま時が止まってくれますように・・・と願ってやまなかった。
美作さんの優しさに触れるたびに感じていた安心感。
私の心に芽生えてきた、美作さんを守ってあげたいという母性。
気付いてしまった以上、素直な自分でいようと思う。
つづく
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