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34.
ここはNY道明寺グループ本社の最上階。
俺は、スケジュールを調整させて、NY行きの飛行機に乗り込み、こうして司と話をするべくやってきた。
牧野とのことを、早かれ遅かれ司に俺の口からきちんと報告するつもりでいた。
司に許しを請うというより、牧野とこれから歩んでいくには、おれ自身が司と対峙しけじめをつけなければならないと思っていた。
久しぶりに会う旧友は、超人的スケージュールだった。
「司、たまには休んでる?」
顔のラインがよりシャープになり少し痩せたようだが、早くも貫禄を身につけた風貌の幼馴染に、第一印象で感じた言葉を口にした。
「ああ、たまにな・・・。休んだらその分溜まるだけだから、おちおち休んでられっか。」
「でも、道明寺の株価も安定してるし、業績だってまた上向きだろ。ちょっとは、気を抜いてもいいんじゃない?」
「トップが気を抜いて、どうやって下の者に示しがつく?まだ、若造の俺がだぞ。」
さんざん周りに迷惑をかけていた司の口からこんな言葉が聞けるなんて、思ってもいなかった。
「で、忙しいあきらがここに来るというのには、訳があるんだろ?」
「ああ・・・話があって。」
「・・・牧野か?」
司がじっとこっちを見ている。
「司、俺、牧野と付き合ってる。ずっと一緒に居たいと思っている。」
驚いた様子もなく俺を見続けている司。
「知ってたのか?」
「あったりまえだろ、俺は何でも知ってんだよ。
なあ、あきら、お前は絶対牧野を幸せにしてやれるよな?
俺みたいに・・・俺みたいに最後に牧野を悲しませることにはならないだろ?」
司は苦しそうな表情を浮かべている。
「司に誓うよ。
俺は、どんなことになっても政略結婚なんかしないし、牧野が望めばバンドの仕事も続けてもいいと思ってる。
あいつの笑顔を全力で守っていくつもりだ。
なあ、司、なんで結婚しないでいる?
まだ牧野のこと忘れられないのか?」
俺は知りたかったことを思い切って聞いてみた。
「あいつは俺が心底愛した女だ。
忘れたくても忘れられねえ・・・。
けど、お前と話せてよかったわ、これでちゃんと整理がつくような気がする。
俺には、重てえ宿命があるし、そんな重荷を牧野に背負わせたくもねえ。
牧野の幸せを遠くで思い続けるだけで、生きていける。
あきら、お前なら、ちーと安心だぜ。」
「つかさ・・・。」
「ふっ、類みたいじゃねえか・・・この台詞。」
司が牧野への思いを抑え俺に話すのは、今もどれだけつらいだろうと心が痛む。
そして、一回り男として大きくなった司に対して羨望と焦りを覚えた。
司に別れの言葉を言って去り際に、
「牧野のバンドのCMの件、司でしょ?」
片手を上げただけの司。
「サンキュウな!」
「うるせー、お前から言われる筋合いはない!」
と怒鳴る司の声を背中に、バタンとドアを閉め外へ出た。
美作さんは、いつのまにかNYで司に会って、私たちのことを報告してきたという。
改めてF4のつながりの深さを感じた。
道明寺の現状は、やはり私も心配だったから、美作さんが行ってくれて本当によかった。
“牧野の幸せを遠くで思い続ける“って穏やかに話していたらしい道明寺。
まだ楽しかった頃の道明寺の笑顔が浮かんでくる。
二人で必死に解決策を模索しようとしていた苦しい日々。
勉学と財閥のトップに立つ故の羨望と妬みの中、オーバーワークが続いて崩れそうな体をなんとか踏ん張って一人戦っていた。
そんな時に起こった株価暴落に若い私たちが選ぶべき選択肢が他にあったというのだろうか。
怒りの感情さえ失った道明寺を見たとき、途方にくれるしかできなかった無力な自分が出来ることは、別れを受け入れるしかなかった。
いつか道明寺とも笑って話せるようになれたらいいな。
そして、やっぱり、今回のCMの話は道明寺からのものだった。
おかげでRevolution’sの新CM曲は好調でチャートの上位にあがっている。
今回は素直に道明寺の気持ちを受け取ろうと思う。
美作さんは、プロジェクトが無事に終わり、新聞や雑誌で大々的に複合モールが宣伝されている。
大成功の出来栄えと高い好評価だ。
個人的なマスコミ取材も増えているようで、某雑誌の“注目の経営者シリーズ”にサブタイトルが“若き才能あふれる企業家 美作商事 美作あきら”と題して、写真入りで掲載されているのを目にした。
美作ママが、「パパに似てきたわ~」と雑誌片手に目を輝かせて言っていた。
う~ん、まだ一回しかお目にかかれていないパパだけど、似てるかな??雰囲気は似てると思うけど・・・。
写真のなかの美作さんは、誰が見ても男前。
地位もあってお金もある。
こんな人が私の彼氏だなんて、自分でも信じられないよ。
会社の正面玄関には美作さんを一目でも見ようと女の子達が出待ちしていると記事に書いてある。
芸能人ばりか?
ある雑誌には再びF4特集が掲載されて、ずらりと知った若い頃の顔写真が並んでいて、それはなんだか笑っちゃうけど。
記事には彼らの本当の姿は書かれていない。
すぐに青筋立てる事とか、女の数を競ってた事とか、寝てばっかりだった事とかは。
それより、今、私には頭の痛い問題が浮上している。
それは・・・、今度のプロジェクト完成祝賀パーティーに私も招待されたから。
問題は、私のパートナーをめぐって、美作さんと一時帰国中の花沢類がお互い譲り合わないからだ。
「なんで類が牧野のパートナーなんだよ。」
「だって、あきらがやっちゃうと注目されちゃうじゃん。まきのが可哀想。」
「お前だって、一応、顔知れてんだし一緒だろ?」
「いいじゃん、ちょうど帰国中で牧野とご飯食べたいなと思ってたんだから。」
「あのなあ、類!牧野は俺のもんだ!それに、祝賀パーティーを夕飯扱いするな!」
「あっ、あきら、俺にそんな口聞いていいの?誰のおかげで牧野とつきあえてるか忘れちゃった? 」
「いや・・・いや、感謝してる。・・・でも、それとこれとは別だ!」
「まきの、やっと猛獣から離れたのに、あきらまでこんなにカッカしてると大変だね・・・ククク。」
「類!あきらめろよ!なあ、牧野、お前も俺のほうがいいよな? 」
「私は、別に・・・花沢類とも久しぶりだし・・・。」
「はあ??」
「ほら、あきらの負けね。」
ってな調子だから・・・。
今回のパーティーは、美作さんは立役者なのだし、忙しくなるだろう。
私は遠慮しておいた方がいいと思うんだけど、美作さんも頑固で引き下がらない。
つづく
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