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選んでくれてありがとう

美作あきらx牧野つくし

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選んでくれてありがとう 49
eranndekuretearigatou49

49.

目が覚めると、窓から白い光が差し込んでいる。
ベッドの中で、気持ちよい伸びを1つした。

「うう~ん、朝?」
「牧野、おはよう。」
私の横には、この一ヶ月余り会いたくて仕方なった美作さん。

「おはよう・・・帰ってきたの全然気付かなかったよ。」
「死んだように眠ってたぞ。」
「うそっ、ねえ、今何時?」
「朝の6時前。」

「早っ・・・。そうか、時差ボケで起きちゃったんだ。美作さんあまり寝てないでしょう?」
「牧野の目が覚めたから、起きておく。」
そういって、右腕に顎を乗せ焦茶の瞳でじっと私をみつめる美作さん。

どちらからともなく寄り添い合う私たち。

美作さんの腕枕の中、心臓のリズムが心地よく伝わって、心地よい場所にやっと戻ってきたような安心感を覚える。

「ねえ、ずっとここに居るから、もう少し眠りなよ。」
美作さんの瞼を手で押さえて、その体勢でじっとした。

美作さんが眠れるよう、自分お息も愛しい相手の呼吸に合わせてみる。
すると再び、素直に眠りの世界へ戻っていく美作さんが愛しくなる。
寝かしつけて、ちょっぴり寂しかったけど、とても幸せだ。

美作さんによると、今日は赴任して以来、初めての丸々一日のオフだと言う。

行きたいところを聞かれ、窓の外に見える屋上に上ってみたいことを伝えると、早速でかけることになった。

アパートメントを出ると、目前にはひっそりとしたグレイの重厚な建物。
そこはスカラ座というオペラ歌劇場らしく、静かなこの辺りも、開演時間に近づくと、うるさい程にぎわいだすという。

手をつなぎ、ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世に入った。
いわゆる、アーケード付きの商店街だけれど、ヨーロッパの一流ブランド店がいっぱいで、世界共通のマクドナルドもあり、たくさんの観光客であふれていた。
アーケードをぬけると、急に視界がパアーと開け、左方向に目的の建物が圧倒的迫力をもって姿を見せる。

「美作さん、この建物何?」
「これは、Duomo(ドゥオーモ)。イタリアゴシック建築の最たるもの。」
「きれい~。なんだか、上のほうが空と溶け合うところ、レース模様みたいね。」
「上ってみる?それぞれの尖塔には、全部聖人が立っていて、圧巻だぜ。」
「もちろん、上る、上る。」
「牧野、エレベーターもあるけど、どうする?階段でいく?暗くて狭いけど、雰囲気ある階段だぜ。」
「よし、階段で上ろう!」

私たちは、二人で何段にも渡る階段をのぼり、やっと明るい外に出た。

「うわっ~、これが遠くから見た槍みたいなやつだね?本当だ~、全部てっぺんに人が立ってるよ。全部違う人だよ・・・。すご~い。」

「牧野、こっち。」

まだ階段があって、ついていくと本当のてっぺんにたどり着いた。
てっぺんには金色のマリア像が空を背にまっすぐ立っていて、まるでこの国を静かに見守っているかのように見える。
ミラノ一望が見渡せて、すごくきれい。

日本と違うオレンジ色の屋根や砂色やレンガ色の建物。
古びた家々がぎっしり並んで、昔の人の息遣いが聞こえてきそうな所はヨーロッパらしいところかな。

「美作さん、イタリアってなんだか空気が大昔の空気みたいだね。」
「そうだな、昔の建物が多いから。」
「一日じゃあ、回りきれないよね。」
「今日はずっと観光するつもり?」
「だって、せっかくミラノ来たんだもん。明日の飛行機で帰らなきゃいけないし。」
「牧野、あと、どこに行きたいの?」
「えっと、『最後の晩餐』が見たい。」
「それは、今日は無理かもしれないぞ、あとで聞いてみるけど。あそこは、予約がいるからな・・・。」

グー。
そんな場所でも、私のお腹は鳴ってしまう。

「アー恥ずかし・・・。」
美作さんに聞かれてたと思うと、恥ずかしくて顔をあげられないよ。

さりげなくドゥオーモの側のリストランテに目配せした美作さんは、結局、その店のブランチを進めてくれる。



『最後の晩餐』予約は、残念ながら、いっぱいだった。
でも、こうして二人で手をつなぎ、ただ歩いているだけでも十分幸せだ。

私たちは、セレピオーネ公園まで町並みを眺めながら、歩いた。
途中、物々しい城壁が見えてくる。
スフォルツェスコ城というお城らしい。

このあたりにくると、観光客が激減して、イタリア人のカップルや家族連れがのんびりすごしていて、私たちも芝生に腰をおろすことにし、久しぶりの時間をのんびり過ごす事にした。

美作さんの仕事は健一パパからの引継ぎを終え、ようやく独りで仕事を回し始めたものの、現地法人の社員達にはまだ信頼されるまでは遠いのだと、その上、人種や文化の違いで面食らう場面も数多いなど、なかなかきびしそうだ。

毎日、大変なのが伝わってくる。


私も、近況を話す。
盛り上がったライブのこと。やっぱりライブハウスの方が好きだと思ったこと。ミニ写真集を出すからカメラマンに写真を撮られまくっていること。
それに、曲作りを初めて、いい感じで楽しくなってきたこと。
それから、美作家では美作さんの部屋にたびたび入ってること等いろいろ話した。

芝生に寝転ぶと、高い空が見える。

この空が日本とつながっているのがとても不思議だ。

でも、こうしてつながっているから私たちは大丈夫だって思える。

いつの間にか、美作さんは眠ってしまい、頬に優しくあたる風が美作さんの髪を揺らしていた。
どのくらいの時間そこにいたのだろう、多分2時間くらい、喧騒や忙殺とは無縁の緩やかな時間の流れは心を整えてくれる。

その後、美作さんおすすめのリストランテへ行き、夕食をとった。
どれもこれも、本場の味はとてもおいしく、イタリアワインも随分いただいて、すっかり酔っ払ってしまった私。

「美作さん、イタリアっていいところだねぇ~。」
いい調子に酔っ払った私は、美作さんにふにゃけた笑顔で言う。

「でも、明日帰っちゃうんだろ?」
「そりゃあね。」
「牧野、俺・・もうギブアップしそう。」
「また、すぐ来るから。」 

私はイタリアの空気にも酔ったようで、ご機嫌だった。



時差ぼけのせいで半分眠ってしまったような状態の私をどうにかアパートまで連れて帰ってくれた美作さん。
大変申し訳ないことをしたのだけれども、私はそのまま朝まで目を開けることなく爆睡状態だったらしい。

朝、美作さんが目を覚ます頃には、帰りの便の時間がせまっていて、バタバタだった。

空港までの車中で、何も言わない美作さん。

「もしかして、ちょっと、すねてる?」
「・・・。」
「今度は気をつけますから。」
「・・・。」
「ねえ、何とか言って。もう、私帰っちゃうんだよ。」
「はぁー、牧野は平気なのかよ?」
「何が?」
「何がって、愛を確かめ合ってない。はっきり言って、俺は牧野を思い切り抱きたかった。牧野はちがうのか?」
「/////// 私だって、同じだよ。」
「あーあ、折角、残像を残せると思ったのになあ、しかも、すぐ帰っちまうし。」
「ごめん・・・。でも、また日本で会えるからいいじゃん。」
「絶対、日本出張を入れるやる。」

課題を残しながら、こうして、初めてのイタリアは終った。

つづく

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