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選んでくれてありがとう

美作あきらx牧野つくし

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選んでくれてありがとう 8
eranndekuretearigatou8

8.

時給の良かった塾のバイトを辞めた。

それから、実質行けなくなった千石屋は、いつでも帰っておいでと言う女将さんの気持ちが嬉しかった。
レコードデビューに「紅白饅頭オーダー予約しておくから」とはしゃぐ女将さんを見てると、鼻の奥がツンとする。


その日は、いつも練習しているスタジオに京子が私たずねてきた。

「京子、元気?どうしたの?そういえば、私、塾のバイトやめちゃってごめんね。」
「何言ってるのょ!つくしは、revolution'sの歌姫になったんだから、ファン第一号としても、専念してもらわなきゃ困るもん。
でもさ、つくし、ライブに出る度になんか歌がうまくなってるっていうか、感動させるっていうか、こんなスピード出世ってあるんだねー?」

「うん、だんだんお客さんの反応とか見えるようになってきて、舞台上での感覚が鋭くなってるような気がするんだ、ふふっ。
私、クリエイターだ~って思ったりして。まだまだトーク下手だし、困ることのほうが多いけどさ。」

「つくし、キラキラしてる。もうオーラが出てるのかな・・・ハハハ。」
「オーラ? まさか、ヒヨっ子もいいとこなんだから。」

後日

私たちはMCレコード会社の会議室で、デビュー曲のプロモーションについて話をしていた。

「うちとしては、デビュー曲をCMでつかってもらって、大々的に売り出そうと企画しています。
今、広告代理店サイドと話をつめているんで、どういう会社のCMか決定次第、ポスターやキャッチのスタイルが決まる予定です。
それと、マネージャーは僕の後輩の後藤田がすることになりました。」と担当の藤巻さん。
その横で、後藤田さんが挨拶をした。

「俺は、この曲を書いた時、躓いて動けない状態の奴や、漠然とした不安を抱えて座り込んじまってる、そういう奴らを引っ張り出す救世主みたいなイメージで書いたんです。
そのコンセプトを理解してくれさえいれば、ポスターなんかのことはおまかせします。」と亜門が落ち着いて言う。

「あっ、もちろん、それは僕が君達を見つけた時に感じた思いと一貫してますから、僕が受けた衝撃をメディアに変えて伝えることが僕の仕事であり喜びですから、お任せください。
それと衣装ですが、あとでスタイリストさんと打ち合わせしてくださいね。
それから、マスコミ対策として、セキュリティー設備の整ったところに住んでもらいます。
ファンを名乗った悪質ないたずらとかもありますから、念のためにお願いします。
特に、つくしさんは紅一点女性なので、お願いします。
一応、会社の寮もありますが、デビューしたら皆さん出ていきます。こちらで、物件を探すお手伝いもしますから。」


「えっ?引っ越さないといけないんですか?」思いがけない話で、私はびっくり。

その後、スタイリストさんと打ち合わせしたりなんやかんやしてから、メンバーと藤巻さん・マネージャーの後藤田さんとスタッフさんと食事に行って解散した。

「つくし、送ってってやるよ。」
「亜門、ありがとう。あ~あ、オンボロアパートだけど、快適だったのに、引っ越さないといけないんだね。
また、敷金とかかるだろうし、困ったな。」

「お前、うちに越してくる気ないか?」

「俺んち、部屋余ってるぜ。
言っとくけど、俺は何もしない・・・とは、悪いけど断言する自信ないな。
けど、無理やり襲わない。
うちはセキュリティーはしっかりしてるし、新しいから綺麗だぜ。
たまに、料理食わせてくれればいいから。」

「あ~ありがとう、私は、飯炊き女ということ?でもさ、あのさぁ~、私がいたら女の人がびっくりするんじゃない?」

「女?ああ、自分の家に連れ込まない主義だから大丈夫だ。ま、考えとけよ!」

プロジェクト関連の仕事で帰宅したのは、夜中12時すぎだった。

日付が変わったばかりは、ここ最近ではまだ早いほうだ。

俺はシャワーのコックをキュッと閉めて、バスローブに身を包み、コロンを少しふりかけ、バスタオルで髪の毛をゴシゴシする。
ようやくスッキリしてソファーに腰掛け一息つくと、ふと牧野の笑顔が浮かんだ。



あいつの顔が見たい。

その両頬を挟んで、俺だけを見つめる瞳に射されたい。

耳に触れ、肩に触れ、背中をさすってからかうと、微かに見せる驚く表情を楽しんでみたい。

そういえば、最近、女に触れてもいない。

牧野の顔を思い浮かべながら、こんなこと思うなんて初めてだった。
向日葵のような笑顔やあいつの声やさっぱりした仕草は好きだけど、女を意識したことは一度もなかった。


俺の育った環境が屈折してるせいか、牧野という女をどのカテゴリーにいれていいのか戸惑ってしまう。

周りに居る女は、三種類に分けられた。

俺の家族か、触れる女か、ただ話す女かで、牧野はどれにも当てはまらないような気がする。


家族のように大事に見つめてきたけれど、本当の家族ではないし、もちろん触れる女でもない。
話すだけの仲でもないわけで、でも好きなんだよな。

今まで牧野を女として意識しなかった理由が自分でも説明できない。


牧野は俺のことを兄のように思ってくれてるだろうが、この俺も、牧野を恋愛対象と見ていなかっただけなのだろうか。

つづく

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