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「お疲れさま! お先で~す!」
「お疲れさま。 つくし、今日は寄り道できる?」
バイト仲間の京子が聞いてきた。
現在、私は英徳大学の4年生。
塾の受付のバイトが終わったところだ。
道明寺とは、約束の4年が来る頃、別れた。
未熟な私には、道明寺の抱える責任のほんの一部しか想像できなかったけれど、それでもF4達と過ごしていた私には、大企業のトップになるということは、 並外れたバイタリティーと自己犠牲が不可欠で家庭との両立は難しく、それは支える家族にも大きな犠牲が強いられることを知った。
トップとして泣く子もだまるカリスマ的存在の道明寺社長が病気で倒れ、求心力を失った道明寺財閥の株価下落は止まらなかった。
そんな中、道明寺サイドに喉から手が出るほど良い条件の政略結婚話が舞い込む。
「今日?これから?あいてるけど。」
「じゃ、ライブハウス行かない?音楽もルックスも超イケテルバンドがあるんだって。
つくしもさ、たまにはガンガンに乗って人生楽しまなきゃ・・・。」
私達は、原宿にあるそのライブハウスに行った。
すでにお客で満杯。
熱狂的なファンらしい女の子グループが最前列を陣取りテンションあげ始めている。
現代っ子京子は、目ざとく空いてる席を見つけたようだ。
バーカウンターで二人分のスナックと飲み物を注文し、京子のところへむかう。
ざわざわ・・・
ガタッ カタン
5つの黒いシルエットが動き、場内の空気が独特の期待ではちきれんばかり。
真っ暗な世界へ、いきなりきつい光が放たれたと同時に、耳が壊れるような大音量がスピーカーから流れ出し、この音量に耐えれるのか疑問が浮かび、でも、それは一瞬のこと。
私の目はベーシストに釘付けになった。
「え?・・・道明寺!? ちがう!国沢亜門・・・。」
「何か言った?つくし、このバンド知ってるの?
revolution's って言うんだよ。レコード会社からデビューの誘いがあるって噂よ。格好いいよねー。」
私が知ってる亜門と違い、目の前の亜門は明るくまっとうな世界のなかで、文字通りスポットライトを浴び輝いていた。
その綺麗なルックスは厳(いかめ)しいほど人を惹き付け恍惚の表情をさせる。
どうして気付かなかったんだろう。
こんなにピッタリな世界があったなんて。
突然の出会いに、半ば信じられない思いで呆然と見つめた。
でも、やはりこうして頑張っていることが嬉しくて、胸が一杯になる。
耳と体に浸透していく亜門の音楽が、嬉しさと共に素直に身体に染み込んでいくようだ。
ただ音楽の中に体と心をあずけると、疲れなんて忘れてしまう。
生活のために憮然と毎日を過ごしていたスカスカな私に、なんの挨拶も無く入り込み胸を熱くする。
演奏が終った時には、気持ちいい爽快感すら感じられた。「京子、ちょっとあのベーシストと話せないかなー?」
「つくし、もしかして知り合いなの?すごーい!!大丈夫。私が話しつけてあげる。」
京子は、こういうときすごく頼りになるというか、うまく事を運ぶ才能がある。
私達が控え室の前で待ってると、ドアが開き、懐かしい顔がのぞいた。
「お前、つくしか・・・?」
亜門がびっくりした様に、尋ねる。
ストレートの髪が、数本汗で頬にくっついていて、ドキッとするくらいセクシーだ。
「あ・亜門・・・、びっくりしたよ! ね、いつから?いつからバンドやってたの?全然知らなかったよ。ものすごい人気じゃない?!」
「お前、何でここにいるんだ? NYに居るはずじゃないのか?」
「・・・あいつとは、別れたんだ。」
頑張っていた私を最も近くで諭してくれた男にそれを言うのは、気が引けた。
「・・・・・隣の子、お前の連れ?今からメンバーと飯食いに行くんだけど、なんなら一緒に行く?」
「えーいいんですか???つくし、行こうよ!」
京子はもう行く気満々。
まず、居酒屋で軽く食事をしてから、カラオケに場所を変えた。
ヴォーカルのカオルさんはさすがに歌がうまい。ステージの続きみたいで、お金払わなくていいのかな。
「やっぱりカオル決心は変わらないのか?」
「折角のデビューの話もあるんだぞ!もう一度考え直してくれよ。」
メンバーの人達が口々に言う。
「ごめん、皆。でも、デビューの話が来た時点で答えは決まってたのよ。
デビューするとなると、生半可な気持ちでいれないでしょ。私には、あれもこれもはできないのよ。わかって欲しい・・・。」
「「えっ??カオルさん辞めちゃうの~??」」と京子と私はハモる。
「カオルは結婚して引退するつもりなの。愛する人のもとへ行くの。」
つぶやくように言う亜門。
しんみりした空気が、遠慮なく流れ出すイントロに吹き飛ばされる。
そして、楽しい雰囲気へとかわるノリのいいミュージシャン達。
次は、私が歌う番。人に自慢できることは少ないけど、結構カラオケでは好評をもらうんだ。
まずは、倖田来未ちゃんの曲。
「「「「つくしちゃ~ん、うまいじゃん~。」」」」
「エヘッ、そう?あ~スッキリした~、いいストレス発散なんだよね~。」
F4みたいにクラッシックの勉強はしなかったけど音楽の点数は、昔から悪くなかったもんね。
今日は、どんどん歌うぞ!
楽しい時間は早く過ぎていくもの。
お開きの時間が来て、私たちはカオルさんに祝福の言葉を伝え、結婚相手の話など興味深く聞いた。
そして、帰りがけに、亜門からバンドの練習を見に来ないかと誘われ、気分爽快だった私は絶対行くよ!なんて、調子いいノリで答えていた。
これが、私とrevolution’sの出会いだった。
つづくPR -
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eranndekuretearigatou2 2.
おんぼろアパートだけど、ここは私の大切なお城。
進は地方の国立大学に進学し、両親はその近くに職を得て暮らしている。
英徳の高額な授業料は、既に道明寺が4年分払い込んでくれていて、今の私が捻出してるのは家賃と一人分の食費等だけ。
といっても、滋さんや桜子やそれぞれ忙しくなったF4が突然やってきるから、いつも多目な食材を買っている。
シャワーを浴びてほっこりしたら、携帯をマナーモードにしたままだったことを思い出した。
げっ、3回も美作さんからだ。
3回目はついさっき。
私は、あわてて美作さんに電話した。
trururururururururururu・・・・・・
「あっ、美作さん?わたし、牧野。」
「おお、牧野。 お前、ずっとマナーモードだっただろ?はーっ、緊急だったらどうすんだよ?まっ、今に始まったことじゃないけどな。 あのな、明日、お袋がお前が食べたがっていたヴィクトリア・サンドウィッチ・ケーキを作るから来ないかってさ。」
「うそっ、嬉しい~。明日はバイト無いから行く!」
「なあ、牧野。お前、就職どうすんだ?」
「そろそろ考えないとね。でも、どんな仕事が合ってるのかもよくわかんないし。」
「とりあえず、うちか類のとこでも入っとくか?」
「そんなことしたら、一生頭上がんなくなるから遠慮しとくよ。」
道明寺と別れてから、美作さんはいつもこうだ。
私のバイトが無い日には、家に呼んでくれたりご飯をご馳走してくれたり。
なんだか塞いでいると、見かねたようにそこから助け出そうとしてくれる。
家族のように、そばにいて暖かく見守ってくれている有難い存在。
「美作さんこそ、美作商事次期社長なんだから、略奪愛なんかシャレにならないからね。未来永劫、美作家の汚点になるよ!」
「俺にはそんな暇なし。マダムどころか総二郎や類とも飲みに行けてないんだぜ。
まあ、心配してくれて、感謝しとくけどな。じゃあな、早く寝ろ。」
それもそのはず。
F3は英徳卒業後、それぞれ本格的に家業を始めていて、気の毒なほど多忙な毎日をすごしている様子だから。翌日
「いらっしゃい、つくしちゃ~ん。あ~嬉しいわ、こっちよ!」
毎度の事ながら、美咲ママは年をとらない特効薬でも飲んでるのかと思う。
3児の母でありながら、ピンク・スイートピーのような甘さを漂わせ、キッチンへ誘ってくれる姿は、淡いピンクのエプロンがとてもよくお似合いだ。
隣に立つ美作さんは、肩をすぼめ微笑んでいた。
一緒に作るといっても、ほとんど出来上がっていて、私はレモンカードを塗ったり、ドリーを使って粉砂糖で模様をつけたりしただけ。
そして、優雅なアフタヌーン・ティーが始まる。
「本当においしい!ヴィクトリア・サンドウィッチ・ケーキってお紅茶によく合いますよね。折角のレース模様が崩れちゃって、なんかもったいないけど。」
「あきらも食べる?」
「食うよ。」
双子の芽夢ちゃん、絵夢ちゃんそして、美咲ママがジーっと美作さんを観察して一斉にハモる。
「「「だって、つくしちゃん(お姉ちゃん)の作ったケーキだもんねー!」」」
「はっ?こういう場合、普通付き合いで食うだろうが・・・。なあ?とにかく、食うぞ。」
クスッ、この兄妹は言い合いでさえ、端からみると、甘い綿菓子でいっぱいスウィートなメルヘンの世界だ。
私の声のトーンまで上がってくる。
美作さんの優しさはここで培われたわけで、こんな環境が人を愛せる心を育むのだとつくづく思う。
美作さん・・・日本で5本の指に入る商社の御曹司、そして卒業後も名を轟かせているイケメンF4の一人でありながら、平等な思いやりを忘れない人。
そんな稀少な人と知り合いというだけで、私は本当に幸せだ。
ケーキを作って、ゆっくりいただいてる間に、お暇の時間となる。
「美作さん、誘ってくれてありがとうね。」
「お袋は牧野のこと気に入ってるから、リクエストされたってすっごい張り切っててさ。
こっちこそ、ありがとうな。」
「美咲ママは幸せだね。私も持つなら美作さんみたいに優しい息子がいいな。」
「ふっ、こういう環境だぜ。仕方ないさ。」
顎を引いて、ニヤリとする美作さん。
「実は気になってるんだけど、こんな風に遊びに来させてもらって本当にいいのかな?図々しくない?」
「あったりまえ。牧野は、F4が認めた女だろう?」
美作さんは、私の肩にポンと手を置いてそう言ってくれる。
道明寺と切れた今でも、私を歓迎してくれるのが嬉しい。「ありがとうね、美作さん。
あっ、そうだ、昨日ね、誰にあったと思う?
亜門と会ったの。国沢亜門のこと覚えてる? 今、人気急上昇中のバンドのベーシストで本当にびっくりしたよ。美作さんにも今度紹介するね。」
「え? 司にクリソツなヤツ? 牧野、大丈夫なのかよ。」
「大丈夫も何も、デビューする噂もあるくらいの実力派バンドだよ。立派になってるから、びっくりするよ。一緒に見に行こうよ。」
「牧野、近づかないほうがいいんじゃないか?」
「美作さんも会えばわかるって・・・すごく全うな姿だからさ。」
つづく -
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私は、スタジオの中が見えるガラスの前に立って、改めてrevolution'sの亜門を眺めた。
やっぱり、道明寺に良く似てる。
そのルックスにファンの女の子たちが夢中になるのもよ~くわかるよ。
けど、ベースの弦を爪弾く指先はやっぱりミュージシャンのもの。
器用に動くものだ。
ギターリストもドラムスもよく見たら、どことなく西門さんと美作さんに似てないかい?
「おっ、つくし!来たか!入れよ。」
「亜門! ここでいいよ。お邪魔でしょうよ。」
「お前さ、こないだカラオケで歌っていた倖田来未の曲、今、歌えるか?」
「えっ???なんで、そんなこと聞くのよ?!」
「まっ、オーディションだ。」
「何?じょ、ジョーダンでしょ。なんで私がオーディション受けんのよ。」
「お前の歌声、いいんだわ。透明感があって、伸びがよくて、高音にパンチがあって、低音でもぶれないだろ。
なっ、やってみないか?
全く興味ないか?卒業してから、やりたいこと見つけてんのか?」
「そ・それは、ただ今全力で模索中。」
「こないだ実に気持ちよさそうに歌ってたよな。少しでも興味あるんなら、考えてみてもいいんじゃねえ? お前のこと、他のメンバーのやつがえらく気に入ってるんだわ。」
「 ・・・・・・・。 」
「まっ、一回歌ってみろよ。やっぱり、あれは聞き間違いだっていう事もあるし。」
早速、イントロが演奏されだした。
歌おうか歌えるのか歌うべきか・・・ドキドキ心臓の音が聞こえる。
思考がもつれてこんがらがるけど、不思議と勝手に歌声が流れ出てきた。
どうしてオーデションを受けているのか理由なんて他所に置いて、歌うことが好きだから歌っていた。
演奏に合わせて声帯をふるわす微動が心地よくて、歌っていいなと自分も再認識する。
パチパチパチパチ・・・拍手だ。
もう決まりみたいに、嬉しそうにメンバーは勝手に盛り上がっている。
その後、カオルさんと一緒にrevolution'sのオリジナルの曲を歌わせてもらった。
帰りがけに亜門に声をかけられた。
「今日は、いきなりで悪かった。
でも、マジで考えてみてくれないか?
返事は出来るだけ早くしてほしい。
実は、レコードデビューの話がきていて、このチャンス逃したくねぇから。」
「ねぇ、それって、もしかして、この私がプロになって歌う可能性があるってこと?」
「そういうこと!」
話が唐突すぎてついていけず、フラリとする頭を立てなおしつつ、返事は今度と約束した。
つづく -
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「ふぅ~。」
「どうした?何度もため息ばかり。」
「ふぅ~、もう、どうしたらいいかわかんないよ。」
「どうしたらって・・・さっきから何をさして言ってるんだか?」
団子屋のバイト中なのも忘れ、私は優紀の隣で何度も溜息をつく。
結局、亜門が人気バンド・ベーシストになっていて偶然再会したこと、そのバンド・ヴォーカルに誘われている話を全部優紀に話した。
「それって、自分を試すチャンスじゃないの?いい話じゃない!?
つくしが道明寺さんと別れてから、あんまり元気なくて、ずっと心配してたんだよ。
大変なことにもポーンと飛び込んでいける元気いっぱいの女の子だったじゃない。
きっと、昔を思い出せ!って神様がくれたプレゼントなんだよ。
やってみてもいいんじゃないのかな。」
「優紀・・・。」
確かに、中学の時の私は怖いものなんて考えなかった。
まじめに努力すれば、皆が幸せになれるって信じていたし、思いを強くすれば何でもできると信じてた。
過去に流された、薄れつつある自分の一部をふと思い出す。
雑草魂と云われた私も、大人になるにつれ、丸くなる代わりにある部分が鈍化していることにその時気付いた。バイトが終わると、空には半透明の白い月が描かれたように浮かんでいた。
視界の先には、スラリと長い脚。
「花沢類・・・・。」
「まきの、おつかれさま。」
彼だけがもつたおやかな仕草で、ビー玉のような瞳に微笑みをくっつけて、ゆっくり近づいてきた。
「花沢類、仕事忙しいんでしょ。」
「ここに来られると迷惑?」
「そ・そんなことあるわけないじゃん!私は、花沢類に申し訳なくて。」
「だったら、散歩付き合ってよ。 」
全力疾走した恋に終止符を打った私は、しばらく、全てが停止してしまったように、呆然としていた。
まるで荒野に捨て去られた荷馬車のように、活動を忘れ動かなくなっていた。
その時、側に来て肩を抱き、その少しだけ冷たい手で頭をなでてくれて、ただそれだけだったのに、花沢類はやっぱり不思議な人。
ゆるゆると雪が溶けるように、悔しさといたらなかった自分への反省が涙となって、とめどなく流れ出てきた。
その日、思い切り泣いてぐちゃぐちゃになって、すっかり疲れ果てた。
そしたら、くよくよ考えるのが馬鹿らしくなってきて、日に日に心の中で道明寺のことを考える日もなくなってきたんだ。
「そういえば、就職どうすんの?」
「それなんだけど、実はさ、今、思い切り悩んでる。」
「・・・・・・・何? 聞くよ。」
「うーん、まだ、自分でも整理できてないことがあって。あたしってさ、昔から貧乏性だから、将来のお仕事の話はすっごく考えないと決められないっていうか・・・、
自分には何があってるのかなーなんてのも、やっぱり納得できるまで考えたいし。」
「何?いけない質問だった?牧野、動揺してるでしょ。」
「また、そんな・・・。」その晩
「今日もよく働いた~。」
労働の後のお風呂は最高、労働の喜びを感じられる最高の場所。
一息つくやいなや、現在トップ級の懸念事項が頭をもたげる。
私がバンドのヴォーカルに?
あまりにも突拍子もない話だよ。
あたたかいお湯の中につかりながら、そんな世界へ向かうことができるのだろうか?と考える。
まだ、何色にも染まっていないこの体。
この腕・胸・おなか・太もも、私だけの体。
『ねぇ、私にプロとして歌を歌っていくことができるかな・・・?』
自分の体に向かって、聞いてみる。
私の小ぶりな胸は?・・・なんだかもっと大きくなるよ。
私の細い腰は?・・・もっと女らしくなるよ。
大丈夫だって言ってるように聞こえる。思い切ってミュージシャンになろうなんて、我ながら荒治療すぎるのではないか?
昼間、優紀が言ったように、これは、やってみろ!って神様がくれたプレゼントなのかな?
勇気を出して、突っ走ってやってみてもいいのかな。
考え事に夢中になるあまり、長湯で上せてしまい、這い出すように湯船から出た。
その夜、私は寝ずに一晩考えて決心をした。
翌日、気が変わらないうちに亜門に返事をする。
イエスの返事を。
何かここで、やってみたい気持ちになったことを伝えた。
デビューの話があるため、早速、ヴォーカル・トレーニングとバンド練習が始まる。
京子にそのことを話すと、ファン一号は私だと豪語し喜んでくれた。
大学4回生になると内定をもらっている生徒も少なくない。
私は、就職活動を棚上げし、バンド活動に時間をさいた。
もちろん、残った単位を落とすわけにはいかないので、勉強も頑張りながら。「せんぱい~、久しぶりです。元気でしたか?」
大学カフェに甘ったるい声が響く。
桜子が話しかけてきた。
美人顔とナイスバディの桜子は、ますますきれいに輝いてきて、今日はウエストのくびれ具合が強調されたワンピ姿で男子達の視線を集めている。
「桜子、あんた、学校に何しに来てんの?男子達を悩殺しにでも来てるの?」
「先輩、私の美しさに今頃気がついたんですか?でも、そういう先輩だって、気付いてないかもしれませんが、キレイになったと思いますよ。」
「お世辞は結構。私は変わってないよ。」
「先輩、最近見かけませんでしたけど、就職活動ですか?」
隠していてもどうせばれるのだから、バンドの話を聞かせた。
「国沢亜門さんと・・・?先輩、つらくないんですか?」
「先輩がそう言うんなら、桜子、応援します。ファン第一号です!」
「ごめん、ファン第一号はバイト友達が・・・。」
桜子は文句いいながら、楽しそうだ。
そして、集合かけて壮行会しなきゃ!と言い残し、行ってしまった。
つづく -
eranndekuretearigatou5 5.
オレは、牧野が国沢亜門のバンドに加入すると聞いて、心配の種を一つ抱えた。
ややこしいことにならなければいいがと思い、牧野を食事に誘った。
「牧野、じゃあ、お前、プロになるかもしれないのか?」
「そうなんだよ~、こないだMCレコード会社の担当者が私の歌声を気に入ってくれてさ~即決まり。なんかまだ自分のことのように思えないんだけどさ。 もしかしたら、私の卒業前にレコードデビューになるかもしれないんだって。」
「でも、決める前にオレに、いや類にでも、なんで相談しなかったんだ?」
「あっ、うん。なんかさ、話の展開が速くてどうやって話していいかわからなかったし、なんか、私の心の中でrevolution(革命)が先に起こっちゃって・・・ヘヘ。
美作さん、私ね、今、結構やる気一杯なんだよ。」
牧野が司と別れてから、呆然自失だった頃のことを思い出すと、それは確かにいい傾向だと思う。
「でもな・・・。バンドって、ちゃんと生活できるのかよ?」
「美作さんには、『頑張れ!』って、また肩をポンってたたいて欲しい。」
牧野は、少し潤んだ瞳で見上げてきた。
こいつの瞳は、そういう綺麗な瞳なんだよな。
司と遠距離恋愛してる最中も、俺はなんだか守ってやりたくて目を離せなかった。
多分、俺は牧野のことが好き?
けれども、あいつが望むように励ましてやるだけ。
俺は、密かに牧野の瞳に恋焦がれつつ、曇らないよう願い続けている。
夜空に月が出ていたあの晩から、その思いは続いている。
「そういえば、牧野の前途を祝って皆で集まろうって言ってたぜ。」MCレコード会社の藤巻さんが、契約の説明をしている。
半年後にレコードデビューできるように今から調整するらしい。
長ったらしい契約内容は、亜門の頭の中に全て入っているようで、納得いかない点はすぐに藤巻さんに変更を求めている。
「牧野、これ、デビュー用に作った曲なんだ。お前、音符読めるか?」
「う~ん、簡単な音だったら読めるけど、ちょっと不安。ねぇ、亜門が曲を書いてるの?」
「ほとんどな。いくつかギターのハルが書いてる。詩は、ドラムの修が多いな。これから、お前も勉強だな!まっ、楽しみながらお前も頑張れよ!」
「さぁ、この曲を歌ってもらおうか・・・。」
私をキーボードのところに連れて行き、メロディーラインを弾き始める。
鍵盤に置かれた指は細くて長くてキレイで、横顔も・・・文句ないよね。
桜子は、亜門と一緒にいると道明寺を思い出してつらくないか心配してくれたけど、大丈夫だ。
私の胸は高鳴らない。
聞こえてくる音の方に、ちゃんと向くから。
「牧野、お前、あいつを思い出すか?」
「そんなことないに決まってるじゃん。亜門、今はもう頭の中はrevolution'sの事だけよ。」
亜門は、口元に微笑みを浮かべて、肩に手を置いた。
「ちょっと!亜門、近すぎ。メンバーに誤解されるじゃない。」
「別にいいし。今、付き合っているやついないんだろ?」
「わたし、そんな器用じゃないの知ってるでしょ。」
「オレ、付き合ってるやついないから、一応言っとく。」
「何よそれ、関係ないし。恋愛はもう当分懲り懲り~。」
つづく -
eranndekuretearigatou6 6.
私のために、F3、滋さん、桜子、優紀それから和也君まで集まって壮行会を開いてくれた。
ちょうど、バンドの練習帰りで、私は亜門を仕事仲間としてちゃんと紹介したかったから、そこへ連れて行ったのだ。
「皆、知ってると思うけど、こちら国沢亜門さん。
バンドのリーダーであり、ベース弾いてるの。」
亜門の姿が現れると、誰もが話すのをやめ、亜門へ視線を向けた。
ちょっと気まづい空気の中、亜門は大きな声で宣誓するように話す。
「オレは道明寺とは違う。
背負うもんが無い代わりに、自分で自分の道を切り開いていくのに必死だ。どうも、つくしとは何か太い縁でつながってるみたいで、 こういうことになった。よろしく。」
みんなは、軽く会釈で返し、それから乾杯して宴が始まった。
酔がまわってきた頃、陽気に酔っ払った和也君が亜門に「僕のつくしちゃんには、指一本触らせないぞ・・・。昔の一件は、消えないぞ!」とからみだし、 一方、類はずっと、亜門を睨んでる?
「牧野が、レコードデビューするとはな、本当にいつもお前にはびっくりさせられるぜ。芸能界ってところはな、怖い狼がうようよしてるらしいから、気をつけろよ。 なんだったら、お兄さんが、事前教育してあげてもいいけど・・・?」
「芸能界っていっても、アイドルとは訳が違うよ。バンド単位での活動だからね。」
西門さんなりのおふざけだとわかっているけど、ちょっと不安になるじゃない。
「おいおい、総二郎、今日は門出を祝う日だぜ。」
美作さんが優しく微笑みながら言ってくれる。
「みんな、忙しいところありがとうね。スタート地点にたったばかりで、これからどう転んでいくのかわからないけど、みんなをハッピーに出来るように頑張ります。応援よろしくお願いします!」俺は、亜門と話したかった。
目で合図し、二人でVIP部屋をそっと抜け、隣の空いていた小部屋で向かい合う。
「何?美作くん。」
「国沢さん、つくしは司と別れた時ボロボロで、ようやく痛みが癒えたところなんですよ。
そのこと覚えておいてください。」
「おー、なるほどね。さっきも、からまれたり、にらまれたりしてたけど、ここにもか。」
「いや、俺は影ながら守ってやるつもりだから。あいつのこと、よろしくお願いしますね。」といって、頭を下げた。
「お前も男なら、それだけってことはないだろう?ね、美作くん。」
牧野を好きなことは自覚してるが、あいつが俺を見る目はお兄ちゃん的まなざしだ。
亜門の言った「お前も男だろ?」の言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
俺は、牧野の前で男になれるのだろうか?亜門が出て行った代わりに、入れ替わるように類が入ってきた。
「あきら、とうとう、目覚めちゃった?」
「は?」
「まきののこと。」
「・・・」
「告るつもり?」
「俺は、おにいちゃんのままだろ。」とやけっぱちに答えた。
「おれさ、フランスに行くことになると思う。」
「!・・・そうか、お前もいよいよだな。」
「俺さ、まきのに側にいて欲しいと思っている。」
類の瞳が静かに牧野への思いを伝えるつもりだと語っている。
沈黙が流れた。
「そうか、類は牧野のことずっと好きだったもんな。」
「もし、牧野がいいって言ってくれたら、もらっちゃうから。」
ドキっとした。
俺の前から牧野がいなくなる?
つづく -
eranndekuretearigatou7 7.
私の初舞台の日が来た。
どうしよう、緊張する。
あれだけ練習したし、曲もいい。大丈夫だよね。
朝から落ち着かない私は、本番で着る衣装の確認を名目に亜門に電話した。
「はい。」寝起きの亜門の声。
「ごめん、もしかして寝てた?でも、もう10時過ぎてるよ。」
「おぅ、10時かー。ねみ~。」
「あのさ、今日の衣装なんだけどさ、・・・」といったところで、「だ~れ~?こんな朝っぱらから」と横から絡みつくような女の声が聞こえた。
ぎょっ!ぎょ!
それから、手短に衣装のことを一方的に話しあわてて電話をきった。
あーびっくりした~。
亜門はあんな容姿で、モテないはずないし、そりゃ女が放って置くはずないか。
もしかして、他のメンバーもこんな感じなのぉ?
乱れた風紀は困るけど、モテるのは仕事柄喜ばしいことで、いちいち驚いていてはいけないよね!と自分に言い聞かせた。なにはともあれ、無事、初めてのコンサートが終了。
会場は大盛り上がりだった。音楽が空気に溶けてく感じがした。
見に来てくれてる人達と一体となった感覚。この陶酔感は病み付きになりそうだ。
アンコールに二度ほど応えて、控え室にもどるとそこへ、西門さん・花沢類・滋さん・桜子・優紀が労いに来てくれた。
「まーきの。やっぱ、あいかわらず大きな声だね。」と飄々とした口調の花沢類。
「花沢類、来てくれたんだ。ね、どうだった?」
そこへ、大きな黄色い花束を差し出しながら、桜子が入ってくる。
「ギタリストの人、すごいタイプなんですけど、紹介してくださいよ。」
「滋ちゃんも、つくしに惚れちゃいました!」と、むぎゅ~のハグ。
「つくし、よかったよ。私の知ってる人じゃないみたいで、まぶしかったよ!すごいよ!」と優紀が言ってくれた。
「まっ、あれだ。案ずるより生むが易しという感じだな。よかったぜ。」と西門さん。
口々に嬉しいことを言ってくれる。
こうして駆けつけてくれる仲間がいて、私は本当に幸せだと思った。
「そういえば、美作さんは?」
「あー、あきらなら、仕事でどうしても抜けれないって。」
「じゃ、仕方ないよね。美作さんも、忙しい身だから。」
「・・・美作さん、今頃、会社かな?」
ポツリとつぶやくつくしを、類は見逃さない。そのころ、あきらは、美作商事横浜支店の大会議室にいた。
「これまでの路線をそのままに考えている。今回のみなとみらい大型ファションモールが成功すれば、服飾事業だけでなく港湾事業にも今後利益を生むことになるはずだ。 みんな、抜かりなく、引き続き取り組んでいって欲しい。では、今日はお疲れさま。」
若手が雑談を交わし始める。
「美作支社長、ジュニアなのに、仕事真面目だよな。」
「あの若さで、こんな大きなプロジェクトを率いてるなんて、かなりやり手なんだろ。」
このプロジェクトの成功をかけて、気も抜けない緊張が続いている。
スタッフもいいメンバーをそろえた。
入社してまだわずかだが、ようやく骨組みが見え、プロジェクトの指揮をまかされた。
必ず成功させ、目に見える成果を上げることで、俺自身も大事な第一歩を踏み出すことになる。
将来の立場を思うと、こんなストレスは序の口だろう。
俺の前に敷かれたレールの上を上手く歩いて当然で、そのイメージと社員の期待を裏切るわけにはいかない。
「美作支社長、お紅茶をお持ちしました。お疲れでしょうから、シュガーを一杯加えたのですが、よろしかったですか?」
「あー、気が利くね。里美くん、ありがとう。」
「美作支社長が仕事をしている時の颯爽とした姿、素敵ですよ。お手伝いできることがありましたら、何なりとお申し付けください。」
つづく -
eranndekuretearigatou8 8.
時給の良かった塾のバイトを辞めた。
それから、実質行けなくなった千石屋は、いつでも帰っておいでと言う女将さんの気持ちが嬉しかった。
レコードデビューに「紅白饅頭オーダー予約しておくから」とはしゃぐ女将さんを見てると、鼻の奥がツンとする。
その日は、いつも練習しているスタジオに京子が私たずねてきた。
「京子、元気?どうしたの?そういえば、私、塾のバイトやめちゃってごめんね。」
「何言ってるのょ!つくしは、revolution'sの歌姫になったんだから、ファン第一号としても、専念してもらわなきゃ困るもん。
でもさ、つくし、ライブに出る度になんか歌がうまくなってるっていうか、感動させるっていうか、こんなスピード出世ってあるんだねー?」
「うん、だんだんお客さんの反応とか見えるようになってきて、舞台上での感覚が鋭くなってるような気がするんだ、ふふっ。
私、クリエイターだ~って思ったりして。まだまだトーク下手だし、困ることのほうが多いけどさ。」
「つくし、キラキラしてる。もうオーラが出てるのかな・・・ハハハ。」
「オーラ? まさか、ヒヨっ子もいいとこなんだから。」後日
私たちはMCレコード会社の会議室で、デビュー曲のプロモーションについて話をしていた。
「うちとしては、デビュー曲をCMでつかってもらって、大々的に売り出そうと企画しています。
今、広告代理店サイドと話をつめているんで、どういう会社のCMか決定次第、ポスターやキャッチのスタイルが決まる予定です。
それと、マネージャーは僕の後輩の後藤田がすることになりました。」と担当の藤巻さん。
その横で、後藤田さんが挨拶をした。
「俺は、この曲を書いた時、躓いて動けない状態の奴や、漠然とした不安を抱えて座り込んじまってる、そういう奴らを引っ張り出す救世主みたいなイメージで書いたんです。
そのコンセプトを理解してくれさえいれば、ポスターなんかのことはおまかせします。」と亜門が落ち着いて言う。
「あっ、もちろん、それは僕が君達を見つけた時に感じた思いと一貫してますから、僕が受けた衝撃をメディアに変えて伝えることが僕の仕事であり喜びですから、お任せください。
それと衣装ですが、あとでスタイリストさんと打ち合わせしてくださいね。
それから、マスコミ対策として、セキュリティー設備の整ったところに住んでもらいます。
ファンを名乗った悪質ないたずらとかもありますから、念のためにお願いします。
特に、つくしさんは紅一点女性なので、お願いします。
一応、会社の寮もありますが、デビューしたら皆さん出ていきます。こちらで、物件を探すお手伝いもしますから。」
「えっ?引っ越さないといけないんですか?」思いがけない話で、私はびっくり。
その後、スタイリストさんと打ち合わせしたりなんやかんやしてから、メンバーと藤巻さん・マネージャーの後藤田さんとスタッフさんと食事に行って解散した。
「つくし、送ってってやるよ。」
「亜門、ありがとう。あ~あ、オンボロアパートだけど、快適だったのに、引っ越さないといけないんだね。
また、敷金とかかるだろうし、困ったな。」
「お前、うちに越してくる気ないか?」
「俺んち、部屋余ってるぜ。
言っとくけど、俺は何もしない・・・とは、悪いけど断言する自信ないな。
けど、無理やり襲わない。
うちはセキュリティーはしっかりしてるし、新しいから綺麗だぜ。
たまに、料理食わせてくれればいいから。」
「あ~ありがとう、私は、飯炊き女ということ?でもさ、あのさぁ~、私がいたら女の人がびっくりするんじゃない?」
「女?ああ、自分の家に連れ込まない主義だから大丈夫だ。ま、考えとけよ!」プロジェクト関連の仕事で帰宅したのは、夜中12時すぎだった。
日付が変わったばかりは、ここ最近ではまだ早いほうだ。
俺はシャワーのコックをキュッと閉めて、バスローブに身を包み、コロンを少しふりかけ、バスタオルで髪の毛をゴシゴシする。
ようやくスッキリしてソファーに腰掛け一息つくと、ふと牧野の笑顔が浮かんだ。
あいつの顔が見たい。
その両頬を挟んで、俺だけを見つめる瞳に射されたい。
耳に触れ、肩に触れ、背中をさすってからかうと、微かに見せる驚く表情を楽しんでみたい。
そういえば、最近、女に触れてもいない。
牧野の顔を思い浮かべながら、こんなこと思うなんて初めてだった。
向日葵のような笑顔やあいつの声やさっぱりした仕草は好きだけど、女を意識したことは一度もなかった。
俺の育った環境が屈折してるせいか、牧野という女をどのカテゴリーにいれていいのか戸惑ってしまう。
周りに居る女は、三種類に分けられた。
俺の家族か、触れる女か、ただ話す女かで、牧野はどれにも当てはまらないような気がする。
家族のように大事に見つめてきたけれど、本当の家族ではないし、もちろん触れる女でもない。
話すだけの仲でもないわけで、でも好きなんだよな。
今まで牧野を女として意識しなかった理由が自分でも説明できない。
牧野は俺のことを兄のように思ってくれてるだろうが、この俺も、牧野を恋愛対象と見ていなかっただけなのだろうか。
つづく -
eranndekuretearigatou9 9.
Trururururururururu・・・・・
「牧野?久しぶりだな。」
「美作さん!元気?ライブ、見に来てよね。結構いい感じなんだから。」
「おう、もちろん。突然だが、昼の時間ひまか?」
「うん。2時頃までならいいよ。」
「良かった。じゃ、昼飯一緒に食おうぜ。」
まもなく、アパートの前に黒塗りのベンツが止まって、中から美作さんが颯爽と現れた。
美作さんは濃紺のスラックスに淡いイエローのドレスシャツ姿。
そのまま紳士服のCM撮りに行けそうで、この安アパートには不釣合いだ。
「早く降りて来い。行くぞ。」
車内のシートカバーはきちんと糊付けされて、乗り込むときにサーッと丈夫な綿の音をたてた。
「牧野、元気そうだな。」
美作さんがこちらを向いて、穏やかに微笑みながら言う。
煌びやかなステージに立つようになり、生活が様変わり、想像すらしたことなかった刺激的な日々が続いていた。
メイクと衣装に身を包み、スポットライトの中で表現する自分は自分で無いような錯覚をおぼえる時もあった。
目の前で微笑んでくれる美作さんはとても穏やかなまま、なんだか懐かしく嬉しくなる。
車は表参道のメキシコ料理店前で止まり、美作さんにエスコートされ個室に通された。「ここは、去年オープンしたうちの会社系列の店なんだ。メキシコ料理って、意外とヘルシーなんだぞ。
日本人好みの味に変えてるから、なんでも食えると思うけど。」
「へえー、美作さんとこのお店なんだ。メキシコのワインボトルがいっぱい並んでるね。ここだけ日本じゃないみたい。」
食事はどれも本当においしかった。
タコスは全然辛くなくて平気だったし、ワカモーレをトルティア・チップスにたっぷりつけてたくさんいただいた。
「牧野のステージ、すごく好評らしいな。いつ見れるかな。」
「そうだよ、美作さん、早く見に来てよ。
こないだ音楽雑誌に紹介されてね、"彗星のごとくあらわれた実力派バンド!"って紹介されてたんだよ。
もう、びっくりでしょ?!」
「すごいじゃないか。」
「でしょー?!彗星だって、ふふっ。」
「牧野、これ、なかなか見に行けてないから、せめてもの応援に。」
「何?あけていい?」
中は、DKNYの大きめのサングラスだった。
「これから顔が売れてきたら、たくさん要るだろうと思ってな。」
私が持っているサングラスって、小学校のときに海で買ってもらったプラスチックの安いやつだけだ。
当時、こんなブランドものは、すごいマダムか人気芸能人がするもんだと思っていた。
レコードデビューしたらグラサンがはずせなくなっちゃうんだろうか?
そんなこと、あんまり考えてなくて背筋が寒くなる。
「美作さん、私ちょっと怖くなってきたよ。いつも変装しなきゃならない生活になるのかな?」
「そんなの芸能人なんだから当たり前だろ。何かを得たら、何かを失うと言うだろ?」
「そうそう、家もさ、セキュリティーがあるところじゃないといけないらしくて、引っ越さないとだめなんだって。当分、亜門の家で暮らすことになるかもしんない・・・。」
「は?なんであいつん家なんだよ?あいつは、男だろ?」
「そ、それは、大丈夫だと思うよ。無理には襲わないって言ってたし・・・。」とだんだん声が小さくなる。
「お、襲わない?お前なあ・・・」といって大きなため息をつかれた。
「男と女が一緒に暮らして、絶対って事はあり得ないもんだ。なあ、牧野、だったらうちへ来い。
うちなら、セキュリティーはしっかりしているし、母親も妹達も大歓迎すると思うし、牧野だって安心だろ?」
「そりゃあ、美作さんちは居心地いいけど、そんなの図々しすぎるよ。」
「この際遠慮するな。家賃を払ってくれてもいいから、うちへ来い。俺が安心するから。なんなら、妹達の宿題を手伝ってもらう仕事を理由にってどう?」
「そんなのでいい訳ないでしょうが。」
「いいんだ。じゃ、決まりな!」
「でも・・・。」
「これ以上この話をしていると、また話がややこしくなる。
今、ここであいつらに連絡してみようか?」
美作さんは、言葉通り携帯を取り出し話をし始めた。
「牧野、やっぱりあいつらすごい喜んでるぜ。」
ウインクしながら、そう言う美作さん。
そういうわけで、あれよあれよと言う間に、美作さん家にしばらくお世話になることになってしまったのだ。
できるだけ早く敷金と当面の生活費を稼いで、セキュリティーがしっかりしたマンションへ移るつもりで、それまで、有難く申し出を受けて、というより、そこんところは事後話だけど、甘えることにした。
美作さんの言葉に甘えさせてもらおう!
そして、あっという間に引越しを済ませ美作邸での生活が始まった。
つづく -
eranndekuretearigatou10 10.
2週間のフランス出張から戻って、帰りに牧野のアパートへ立ち寄った。
けれど、もぬけの殻。
ポストを見ると、郵便局あての住所変更につき転送願いの葉書が入っていた。
そこには、牧野の几帳面な字で新しい住所が書かれている。
新住所はあきらん家?
俺は花沢物産ジュニアとして正式入社してから、学生時代と一転し昼寝どころか多忙を極めている。
フランスに拠点を置く花沢物産にとって、欧州での修行は最重要で親父から何度も渡仏を促され、そうなれば早々日本へ戻れないだろう。
その前に、どうしてもきちんと牧野に思いを伝えたいと思っている。
俺は、すぐにあきらん家へむかった。「おっ、類、久しぶりだな。」
「うん、さっきフランスから帰ってきたばっかし。」
「で、どうした急に?」
「あきら、わかってるんでしょ。俺の来た理由。」
「あぁ、牧野はいまここにいる。」
急に事が運んだ理由を、簡潔に話そうとするあきら。
確かに、国沢亜門のところに住まわせるより安心だけど、やっぱりおもしろくない。
牧野に会いにきたんだから、まずは会わせてもらう。
トントン・・・
「まきの、いる?」
ドアが開き牧野が大きな目をさらに大きくさせて、俺を見上げた。
「花沢類?」
「引越し騒動、急だったね。あきらから聞いた。」
「美作さんには悪いんだけど、しばらく甘えさせてもらおうと思って。忙しくてバイト全然いれらんないしさ。」
まきのの部屋は、アパートより広くて、白いレースのカーテンがユラユラ揺れるのが見えた。
「そういえば、まきの、もうじき卒業だね。お祝いしなきゃ。」
「やっと卒業見込みがついて、ほっとしたところだよー。」
「よく頑張ったと思うよ。お祝い何がいい?」
「いいよ。花沢類には、お世話になってばかりだったから。」とクスッ笑う牧野。
牧野はきれいになったし、実際、どんどん離れて知らない世界へ羽ばたいていこうとしている。
頑張るまきのを応援したいけど、あのかわいい笑顔をみんなに向けちゃうのは歓迎できない。
「まきの、プロム出るの?パートナーに立候補したいんだけど、ダメ?」
「プロム?何にも考えてなかったよ。」
「じゃ、今から考えて。」
俺はそう言って、机の上の楽譜のピースを手に取って眺めた。
つづく -
eranndekuretearigatou11 11.
代官山のバーで久しぶりに総二郎と会う約束をした。
「総二郎、お前も忙しそうだな。」
「あぁ、西門流の時期家元ともなると、茶のことだけじゃダメなんだとよ。
全国にある支部をまとめていくのに、今は身を粉にしてるぜ。
だいだい、名前と顔おぼえるだけでも大変なんだぜ。」
「だろうな。亭主を勤めはじめてからだと、もう結構な人数と会ってんだろ。
向こうから挨拶されて、家元がポカンとしてたら、示しがつかねえもんな。」
「あきら、おまえだってそんなもんだろ。」
「あぁ、今回大きなプロジェクトをまかされて、毎晩遅くまで仕事漬けさ。」
「もしかして、誰かさんの為にしてんの?」
「え?」
「長年のつきあい、何だと思ってんだ?
聞いたぞ、牧野、あきらん家にいるらしいな。」
総二郎は、意味深な目つきで言う。
「俺は、ただ、またあいつが傷つくのを見たくないだけだ。」
「お前のそのオプラートにつつんだセリフ、はっきり言って愛の言葉に聞こえるぞ、認めちまえよ。
これから、どうするつもり?類だって、いるだろ?
あきらも類も大事なダチだから、俺はどっちの応援もするつもりだけど。」
「牧野が大事だ。でもな、牧野を女として好きなんだろうか?って考える。」
つぶやくように言った。
「お前、もしかして、牧野を好きなくせに抱きたいって思ったこと無いの?」
「無い・・・な。」
「プッ。
あいつ、色気ゼロ牧野だからな~。
男を知れば、牧野だって色気づくだろうし、俺が一肌脱ごうか?」
「おい! 」
俺は総二郎を睨みつけた。俺たちは、お互いの奮闘を景気づけ別れた。
リモに乗り込むなり深く眠ってしまったようで、運転手の山田に起こされるまで、到着したことに気付かなかった。
神経質な俺が、崩れるように車中で寝入ったことは小学生の時以来。
それだけ、疲れがたまってきたのか。
自室に入る前に牧野の部屋のドアを眺めるのが、癖になっていた。
ふと、妹達の部屋から明かりが漏れているのに気付く。
『こんな遅くに・・・。』
部屋を覗くと、ベッドに寝ている絵夢と芽夢、それにベッドの端に頭を乗せスースー眠る牧野がいた。
牧野の手元には、アンデルセンの飛び出す絵本。
牧野の手から本をそっと離した。
「み、みまさかさん~?」と眠そうに牧野が目をしょぼしょぼさせながら言う。
「牧野、起こしちまったか?ごめん。よく寝ていたのにな。」
「あっそうか、私、本読んでたら眠くなって、ねちゃってたんだ・・・。美作さん、今帰ったところ?」
「今日はめずらしく、総二郎と会ってた。あいつ、時期家元の仕事で全国を飛びまわってるぜ。」
「ジュニアも大変だね。」
小さく微笑み返す牧野の顔に見入っていた。
こいつの笑みは、疲れを癒す特効薬か、とたんに全身の筋肉が緩み始める。
あわてて妹達の布団をかけ直し、二人の額にキスを落とす。
「美作さんって、本当にいいお兄さんだね。私にも肩をポンっとたたいて励ましてくれたりするでしょう?
あれ、すっごい安心するんだよ~。
うちは、パパがあんな感じで、頼りないでしょ?愛情はたっぷりだけど、大黒柱キャラじゃないからね。
パパ代わりでもないけど、美作さんには甘えてしまうな、ありがとうね。」
「おい、お父さん代わりかよ・・・せめて、お兄さんだろ?」
「あー、ごめん。とにかく、感謝してるんだ。」
つづく -
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eranndekuretearigatou2 12.
「ハル、修、甲斐、つくし、準備いいか?アンコール、いくぜ!」
「「「「OK!!よ~し!!」」」」
ドラムのカウントが合図、一気に照明が明るくなり、私たちの音が会場いっぱい響き渡る。
客席からの声援もマックスで、それに思い切り応えるだけ。
一曲終わり、少しのトーク。
「皆~、楽しんでくれてるよね~!報告します!私たちrevolution'sは来月CDデビューすることになりました!!これも、皆が応援してくれているおかげだよ、ありがとーーー!
revolution'sは、いつもみんなと喜んでもらえる音楽を・・・と願ってやってます。
CDが出たら、ここに来れない人たちにも聞いてもらえるし、たくさんの人をハッピーにするためにがんばりますので、これからも応援ヨロシク!!」
ペコリと頭を下げた。
続けて3曲アンコール。
ステージに立つ度に、伝えたい思い・歌う喜び・ファンへの感謝がどんどんふくらんでいく。
私の体に収まりきれないくらい膨らんで、怖くなるくらいだ。
今日のステージも燃焼し尽くし、控え室で休憩していた。
「つくし、美作さんって人が挨拶したいって。」
「えっ?美作さん?」
まさか美作さんが今日見に来ているとは知らなかった。
「よっ!牧野。」
「見に来てくれるんだったら、言ってよ。なんか、一応、心の準備とか。」
「いや、来れるかどうかわからなかったし、実際、途中からだし。それはそうと、お前、すごいな。すっかり、歌姫じゃん。」
「でっしょー!!」
「あっ、これ、すぐそこで買ったものだけど。」
ピンクのかわいらしいブーケだ。
「ありがとう。美作さん。」
その小さな花束は、美作さんの優しさが束になってる感じだ。
そこへ、亜門がやってきて、打ち上げに誘われた。
美作さんを見ると、参加はどっちでもいいぞと付け加える亜門。
私はこのまま帰ることにし、途中まで、メンバーたちと一緒にゾロゾロ歩いた。
すると、女の子の声が耳に届く。
「止めてください!」
酔っ払いの親父に付きまとわれて、嫌がっている様子。
その子の声が真木子ちゃんに似ていたから、耳に飛び込んできたのかもしれない。
英徳高校時代、目立たないように暮らしていた私には、真木子ちゃんが転倒して道明寺とぶつからなければ、F4と親しくなるきっかけなんか有り得なかった。
こうして、美作さんや亜門とも歩くことなんて無かったはず。
「ちょっと、やめなさいよ!」とその親父に食ってかかった。
「なんだとぉ!姉ちゃん、おっ、美人さんじゃねえか。」とニヤニヤする酔っ払い親父。
その手を払いのけ、「警察呼ぶよ!」ときっと睨みつけた。
親父は、ぶつぶつ言いながら去っていき、助けた女の子にお礼を言われた。
「いつもやられてたら、つまんないでしょ?」
ニッコリ笑ってそう言うと、その女の子はキョトンとした顔をする。
美作さんが「牧野、むちゃすんなよ。」とふっと笑う。
そして、亜門は「あいかわらずのやつだな・・・。」微笑んだ。リモのところでみんなと別れ、美作さんと車に乗り込んだ。
「美作さん、ずっと思ってたんだけど、なんだか顔色悪いよ。大丈夫?今日だって、無理してくれたんでしょ?」
「まあ、心配すんな。今の仕事が一段落すれば、楽になるから。」
私は、いつも美作さんに励まされ助けられてるのに、こんな時どうしてあげればいい?
座席に置かれた美作さんの大きな左手に、自然と自分の手を重ねた。
それは、本当に自然な流れで、なんだか美作さんに優しくしてあげたかったのだ。
「ま、牧野?」
あわてて、手を引っ込めた。
「私、何してんだろ、元気パワーが届くかな~と思ったのかな。ごめん。」
「いや、牧野の手、気持ちいいよ。手を当てられるって気持ちいいんもんだな。」
私の顔は、真っ赤に染まっていたと思う。
「牧野、そういえば、プロム、類と出るんだろ?」
「あああぁ!!返事するの忘れてた。」
「まだ返事してないのかよ?決めたのか?」
「決めたよ、類と出るって。英徳の卒業だもん!」
「司とつきあってる時も、類は特別だったもんな。牧野の体の一部なんだろ?」
「・・・まあね。」
会話は途切れ、美作さんは窓の外を眺めたあと、家までずっと目を瞑っていたようだった。
つづく -
eranndekuretearigatou13 13.
花沢類にプロムのパートナー立候補された。
彼は、私の初恋の人。
あの頃の私だったら、有頂天になっていたかもしれない。
花沢類は、赤札はられて集団リンチにあってた私を身を呈してかばってくれた。
NYで道明寺に冷たくあしらわれた後も、花沢類が暖めてくれた。
非常階段に類と居ると、一年中、春のようにおだやかで、元気でいるために欠かせない場所だった。
昔の思い出が次から次へと思い出されていく。
道明寺と別れた時も、花沢類はなにかと顔を出してくれて私を支えてくれた。
だから、英徳を卒業する時、横にいてもらうのは、ずっと一緒にいてくれた花沢類で当然のように思う。
パートナーのことは、花沢類にお願いしようと心に決めた。
Trururururrurururururururur・・・・
「もしもし。」
「はい、まきの?」
「うん。ごめん、こんな遅くに。花沢類、今、話せる?」
「名古屋に居て、ホテルに戻ったとこ。明日にはそっち戻るよ。で、どうした?」
「あのさ、プロムのパートナーの返事してなかったでしょ。
私、英徳では花沢類がいてくれたから頑張れた。だから最後も、横にいてくれる?」
「ふぅ~、ずっと連絡くれなかったから、ダメかと思ってた。」
「まさか、こちらこそお願いします。それで、ドレスは道明寺にもらったのでいいよね?」
「じゃあ、俺にプレゼントさせて。俺がまきのを誘ったんだから当たり前でしょ。
明日夕方からあいてる?ドレス、見に行こう。」
「あいてるけど・・・。でも・・・。」
こんなとき、自分が何を言っても取り合ってくれないのがF4の共通点で、早々に言い返すのをあきらめた。
「じゃ、5時に迎えに行く。あきらん家だよね?」
次の日、花沢類の愛車白いポルシェで、これまた高そうなブティックに連れて行かれた。
「ようこそ、類さま、お待ちしておりました。」白髪のまざった品のいい女性店員がニコニコと近寄ってきた。
「頼んでおいたの見せてくれる?」
「はい。ただいま。」
店の奥に配置された大きなソファの一つに腰掛けて待つ花沢類の姿は、まるで一枚の絵のようにこの風景に溶け込んでいる。
長くてすらりとした足を組み、第二ボタンまであけたシャツからのぞく胸。
右側に顔を少し傾けて、茶色いサラ髪がけだるく目にかかってる。
花沢類ってこの店の広告塔みたい・・・なんて思っていると、店員が一枚のドレスを大事そうに抱えてやってきた。
「花沢さま、こちらです。いかがですか?」
花沢類は目を細めうなずくと、私に向き直り「牧野、これ着てみて。」と言う。
薄いサーモンピンクのシルクのイブニングドレスで、胸元はU型にカットされ、スカートのすそが何枚かの花びらが重なっているようなデザインだ。
「うわぁ~、すてき~。花沢類、これって、もしかして私のために頼んでおいてくれたの?」
「うん。だって、想い出に残る大事な日でしょ。」
返す言葉が見つからない私を、花沢類はじっと嬉しそうに見つめていた。
「お着替えを手伝います。こちらへ。」
着替えを済ませると、店の人が簡単に髪を結ってくれた。
ちょっと、恥ずかしかったけど、花沢類の前に出ていくと、私をじっとみて立ち尽くしている変な花沢類。
「花沢類、どう?・・・・へんかな?でも、すご~く軽くて、着ていてすごく気持ちいいよ。」
うんともすんとも言わないへんな花沢類に、店員の人が、「類様、見とれていらっしゃって・・・。ホホホ。いかがですか?とてもお似合いですよね。」
「まきの、俺、ノックアウトされちゃったね。」と微笑みながら、一歩づつ近づいてきて、ふわっと抱きしめられた。
まったく、何考えてんだかわからない人だ。
「ちょ、ちょっと花沢類、こんなところで何やってんのよ!」
「え?ここじゃなかったら、いいの?」
「そういう意味じゃなくて・・・。///////」
それから、ドレスにあう靴とアクセサリーと鞄を選んで、配送を頼み、店を出た。
「お腹すいたよね?」
「買い物のあとは、いつもお腹ぺこぺこになるよ~。花沢類はお腹すいた?」
「うん。じゃ、行こう。」おれは、銀座の料亭に牧野を連れて行った。
「花沢類、こんな高そうなお店、よく来るの?
どれも、とっても盛り付けがきれいで、食べるのがもったいよ。」
「おいしそうに食べるね。まきののほっぺた、俺も欲しい。クスっ。」
「もう、こんなおいしい物、食べれるなんて幸せだよ~。」
「ね、牧野?プロムが終ったら、レコードデビューでしょ、どう?」
「うん。こないだからプロモーションビデオ撮り始めてるんだよ。CGを使って、私ががけのてっぺんに立って歌ってて、天からすごい光が差すの・・・。
ありえないっつうの。ははは。あと、ギターのハルがお風呂はいって泡だらけになってるところとか撮影して、笑っちゃうんだよ。亜門は、音作りの鬼みたいにずっとスタジオにこもって調整してる。
もう、デビューに向けて秒読みって感じだよ・・・。」
「そっ、忙しくなるね。」
「私も自分が好きな仕事を見つけたから、前に向かって頑張る!花沢類達と一緒に!」
きらきら瞳を輝かせてそう言うまきのは、まぶしいくらいに輝いて見えた。
「まきの、おれ、フランスに行くことになったんだ。・・・・。」
「え?なんて?・・・」
つづく -
eranndekuretearigatou14 14.
「フランス行くって、長い出張ってこと?また、帰ってくるんでしょ?」
「たぶん、最低3年は帰って来れないと思う。花沢物産はヨーロッパに拠点をおいてて、どうしても行かなければならないんだ。ずっと親父から催促されてた。」
花沢類は、その茶色く透き通る瞳で見つめながら言う。
空気みたいに側にいてくれるものだと思っていたから、遠くへ行くなんて考えられない。
静寂の中、ただ呆然と花沢類を見返す私。
ちょうどその時、けたたましく花沢類の携帯が鳴った。
Trururururururrurururu・・・・・・・・・・・・・・
花沢類は、ちらっと携帯の表示を見て、電話に出た。
「総二郎?何?」
「類か?あきらが襲われた。詳しくはわからないが、男が刃物をもってあきらに襲い掛かったらしい。俺は、今、S病院に向かっているところだ。」
「えっ?あきらが襲われた?」
「 ! 」
花沢類の口から「あきらが襲われた?」って聞こえた?
「ねぇ、美作さんがどうかしたの?ねぇ、花沢類、誰から電話なの?」
「総二郎、今、まきのといるんだ。今から、一緒に病院に行くから。」
「おぅ、じゃあ病院でな。」
花沢類は、電話をきるなり立ち上がり、「まきの、病院行こ。あきらが、刃物を持った男に襲われたって。」
「美作さんが?なんで??病院?・・・そんなの・・嘘。
ねぇ、西門さんの冗談でしょ?そんなこと。そんなこと・・・。」
刃物を持った男に襲われた?前に道明寺がさされた時と同じ。
やっと通じて道明寺と過ごせると思った矢先、暴漢に道明寺が刺され、こともあろうにあいつは私だけを忘れ、冷たく怖い目で私を追い返す日々が始まったのだ。
あの頃の光景が脳裏に浮かんで、フラッシュバックする。
その場から、動けなかった。
私の体は震えだし、花沢類に抱きかかえられると、何度もイヤイヤと首を振るばかりで花沢類はそんな私を強く抱きしめる。
「まきの、落ち着いて、落ち着くんだ。さあ、行こう。」病院へ向かう途中、うつむいたままのまきのが心配で、何度も頭をなぜて、「あきらは、大丈夫だよ。」と声をかけた。
何も発しないまきのは、両こぶしを硬くにぎり、ひざの上において小さく震えている。
まきのは、きっと司の時のことを思い出してる。
あきら、まきのは司とあきらを重ねちゃってるよ・・・。
「ねえ、まきの覚えてる?英徳の階段で、『自分で稼いだこともないくせに、たいそうなこと言うんじゃない。』って司に指差して言ったよね?
俺、社会にでてみて本当にその通りだと思った。まきのは、あん時から気付いてたんだね。」
「・・・? 」少し顔をあげるまきの。
「司のとばっちり受けて、拉致られて髪の毛、半分切られたね。あの後、マグマ大使みたいで・・・ククッ。」
「みんなには金太郎みたいって言われたけど・・・。」
「あと、パパがリストラにあって漁村行って、まきのはどこでもバイトしてたよね。」
「仕方ないじゃん・・・。」
「高校生なのに、司の母親に道明寺の権力を使われた。それから、司に忘れられた。」
「 ・・・・。」大きく深呼吸をして、黙り込むまきの。
英徳時代は、確かに親の庇護の元、好き勝手にやっていて、まきのから見れば、俺たちは頼りなく見えたことだろう。
社会人となりジュニアとして進み始めた今、まきのに頼られる立場になれるはずだけど。
例え、側にいるのは俺でなくても。「類様、S病院に着きました。」
「まきの、行こ。」固まるまきのを、ひっぱりあげて病院内へ入っていった。
つづく -
eranndekuretearigatou15 15.
ナースステーションで病室を教えてもらい、足早に向かった。
トントン・・・
「はい。」と女性の声。
きれいな女の人がドアをあけてくれた。
花沢類に続いて病室に入ると、その広い部屋の中、美作さんはベッドの上で点滴につながれ眠っていた。
そんな姿の美作さんを見て、目と鼻の奥がツンとしてくる。
「お、類、牧野。来たか。」
「あきら、どうなの?」花沢類がたずねると、
「襲われた時、とっさに身を交わして深く刺されずにすんだらしい。
腰に切り傷は受けちまったらしいけど、大したこと無くてよかった。
ふぅ~、びっくりさせるなよなぁ~。
傷の治癒を遅らせないため、栄養剤を点滴で入れてるらしいが、ちょうどいい骨休みになるんじゃねえか。」
それを聞いて、安堵のあまり、固まっていた体から力が抜けて行く。
涙がポロリと落ちてくる。
「で、襲ってきたやつは?」
「今、警察で事情聴取中。どうやら、あきらが前に付き合ってた女のダンナみたいだな。
事業が失敗して、妻に愛想つかされ、むしゃくしゃしていたらしくて、あきらから金を巻き上げる魂胆だったかもしれねぇ・・・。」
「あきら、まだ前の彼女と会ってたの?」
「すっかり切れてると思うぜ。そんな話聞いてないし、ここんところ、あいつマジで仕事漬けだったからな。」
「ふ~ん。あきら、変わったね。」私はベッドに近づいて、眠っている顔を覗き込んだ。
初めて真正面から眠っている美作さんを眺めると、鼻筋がスーっとまっすぐ伸びてて、睫毛がとてもきれいだと思った。
胸が上下に規則正しく動いているのが何よりで、ベッドの端をギュッとつかみ涙を指で拭う。
視線を感じた方へ顔を向けると、ドアを開けてくれた女の人と目が合う。
「申し遅れましたが、わたくし、美作支社長の秘書をさせていただいております里美といいます。
支社長が襲われた時、側におりましたので、そのままお世話させていただいてます。」
「牧野つくし・・・です。」
「支社長、今日はもうお目覚めにならないかと思います。」
「そうですか・・・。」
「よろしければ、今晩、わたくしが付き添ってお世話させていただいてもよろしいですか?」
「え?」
「あきらの傷、幸い軽症だし、看護婦さんに頼んでおけば、大丈夫じゃねえの?」と西門さんが言っても、
「いえ、支社長にはお世話になっておりますから・・・。」と返してきた。
里美さんの申し出を受け、私たちは病院をあとにした。美作さんの家に戻っても、主の美作さんはしばらく戻らない。
今日は色々なことがあって、部屋に入るなりへたりこんだ。
美作さんが、無事で本当によかった。
世話をさせて欲しいときっぱり言った秘書の女の人とは、仕事の関係だけなのだろうか?
美作さんが刺されてそれどころじゃなかったけど、それからもう一つ気になる話があった。
花沢類がフランスへ行ってしまうって。
空気みたいな存在で居てくれた花沢類が、いなくなっちゃうなんてピンと来ないよ。
花沢類とは、いつでも会えて、ずっと変らない関係が保てると盲目に思い込んでいた。
花沢類だって、ジュニアだから、道明寺のように政略結婚の話だって降ってくるだろうし、周りの女の人だって、放っておかないのに。
無意識に頼っていたことに気付く。
皆に負けないように頑張るつもりでいたのに、こんなんじゃだめだよな。
つづく -
eranndekuretearigatou16 16.
今日は、朝からMCレコード会社の会議室で打ち合わせだ。
「こちらが出来上がったCDジャケットですよ。」マネージャーの後藤田さんが興奮ぎみに話す。
「「「おっ、いいじゃん。」」」
「デビュー曲がCMで流れ出すのは発売日前日12時予定です。
大型レコード店にはrevolution'sコーナーを設置していただくように手配していまして、購入者には抽選でポスターを配布します。」
「それにしても、このつくしちゃん、めっちゃきれくねえ?」とギターのハル。
「ポスターのつくしちゃんの瞳、力感じるよなー。」とキーボードの甲斐さん。
ドラムの修が、私の肩に手をかけ、「俺は、この華奢な肩幅がいいなーって・・・。」
「もう、みんな、やめてよね!ハアー。」
男所帯に紅一点、しかも一番年下だからマスコット的キャラになっていて、好きなように言われてる。
修の手を払いながら溜息だ。
「でも、つくしさんはお化粧して衣装着ると、なんだか人が変わるっていうか、近寄りがたい美しさをかもし出すんですよね。
プロモーションビデオが出来上がるのが楽しみです。」マネージャーの後藤田さんが言う。
「歌は一番大事だ。けど、ビジョアルはバンドにとっては、武器になるんだぜ。つくし、もう少し貪欲に自分を磨いてみろよ。」と亜門。
「磨くってったって、know howが無いもん。」
「大丈夫ですよ。つくしさん。これからは、プロのスタイリストさんやメイクアップアーティストと接する機会が多くなりますから、少しづつ吸収していけばいいんじゃないですか?」と後藤田さん。
昨夜、花沢類に頼りすぎだったと反省したばかり、変われるチャンスがすぐ目の前に横たわっているのだ。
「よし、やってやろうじゃん。」その頃、S病院では・・・
「あっ、支社長、お目覚めになりましたか?ご気分はいかがです?」
「・・・。里美くん、ここ病院?」
「はい。支社長は男に怪我を負わされてここに運ばれました。幸い、傷は浅いので目が覚めれば、問診後、帰宅してよろしいそうですが、念のため、もう一日入院されたほうがよろしいかと思います。」
「あぁ・・・。」
なんだか、随分深い眠りについていた気がする。
たった一日しか眠っていないというのに、まだ、頭がぼーっとして、体内時計がまったく働かない。
「昨日、西門様・花沢様、それから牧野様がかけつけてくださいました。」
「え?牧野も来たの?」
「はい、花沢様とご一緒のところに連絡が入ったみたいで、おそろいでお見えになりました。」
「そうか・・・。」俺はもう一度目を閉じた。牧野への思いをどうするか決められず、そんな自分にイラついていた。
曇天のようなやるせない気持ちだったんだ。
現実から目を反らすように、固く目を閉じ続けた。
「支社長、そんなにつらそうなお顔をなさらないで・・・。」
突然、里美は俺の手を取り、自分の胸のふくらみの上に引き寄せた。
「ッ・・・?」
「私、たとえ、支社長が誰を思っていらしてもかまいません。そばにいて、慰めてさしあげたい・・・。」
ボーッとする不透明な霧の中で、全てがまだ夢の中だと言われればそう思えた。
振りほどこうにも、右手は機能を失ったかのように、思いに反しその柔らかな感触にすがりつこうとする。
さらに、里美の手が俺の手を包み込むように膨らみの上で動き始める。
柔らかな母性の象徴である温もりは、眠っていた俺の身体の中心部をいきなり目覚めさせ、血液が一箇所へ流れ込むのと同時に全細胞をたたき起こした。
里美が俺の胸元に顔を埋め、その唇が腹に触れた時、おれの意識は完全に覚醒した。
「止めろ、美里!」トントン ノックする音。
「は、はい。」里美が急いで、自分の服を整えた。
「美作さん、目を覚まされましたか?」
担当医が来たようだ。
「はい、先ほど覚めたばかりです。まだ、ボーッとしていますが・・・。」
「傷のほうは、全治一週間程度でしょう。気分が悪くなければ、自宅で休まれてもかまいませんが、いかがしますか?」
「あっ、もうしばら・・・」里美が俺に代わって答えるのをさえぎった。
「お昼すぎには、退院したいと思います。」
傷口を消毒してもらうと、それからさらに少し眠った。
つづく -
eranndekuretearigatou17 17.
昼過ぎ、迎えに来た母親と一緒に、自宅へ戻った。
使用人たちまで笑顔で迎えてくれて、ほんのつかの間の留守が長く感じる。
「「「おかえりなさいませ。あきら様」」」
「「お兄様~!!おかえりなさ~い!!」」
芽夢と絵夢がダダダーッと走り寄ってくる。
「おっ、痛っ!芽夢、絵夢、ちょっと待て!」
「お傷のところ、包帯してるの?」と芽夢
「じゃ、看護婦さんになってあげる。」と絵夢
「芽夢が看護婦さんになるぅ。」と芽夢が張り切って言う。
「ふぅ~、やれやれ。」入院してたほうが良かったかな。
「まだ痛むんでしょう?あきらちゃん、もう心配させないでね~。」
母親は、感涙で涙目になっている。
「部屋で休むでしょ?」
「そうだな。」
まずは、ここから避難だ。
「牧野は?」
「出かけておられます。」
病室と比べるまでもないのだが、自室にはいるやいなや、センスの良さに心身リラックスできる。
たった一日の入院でそうだから、長期間入院後ならその感動はより大きいものだろう。
象嵌の机とキャビネット、ワイン色の皮のソファーセット、どれも俺の好みで設えさせた。
部屋の中央に置かれたクリーム色のベッドに横たわり、天井を見上げる。
見慣れた白い天井は、再び牧野のことを思い出させ、大きなため息を吐き立たせた。「桜子、あんた昨日も合コンしてたのに、今日もなの?」
「当たり前です。桜子は、今が旬なんですから、家に閉じこもっていられません。滋さんこそ、食べてばっかりいないで、チャンスをつかむ努力したほうがいいですよ。
花の命は短いんですから・・・。」
「ふ~ん、そんなもんかなぁ・・・。」
「そういえば、花沢さん、とうとうフランスに行っちゃうらしいですね。牧野先輩、どうするんだろう。」
「類くんは、つくしに好きって伝えたと思う?」
「今の先輩、デビューに向けて頭がいっぱいって感じですもんね。花沢さんだって、告白しづらいですよ、きっと。 花沢さんと先輩って、ずっと一緒に居たのに、いままで何にも無かったんですよね、理解できません。」
「司と幸せになってくれるって思ってたのに。滋ちゃん、つくしだからあきらめたんだよ。」
「それは、私もですよ!」
「司、やっぱり婚約するって言ってた。」
「話したんですか?やっぱり、どうしようもなかったんですかね。」
「よし、もうこうなったら、どんどんおかわり頼んじゃう!食べるよ!桜子も一緒に!」
「桜子は遠慮しときます。私、すぐ身についちゃいますから・・・。滋さんの胃腸は、日本人じゃないですね、きっと。」
Trurururururururururruru・・・・・・・
「電話鳴ってるよ。桜子、どうぞ、出たら?」
「すいません。」
ピッ
「はい。」
電話の声はrevolution'sのギタリスト、ハルだった。
「ごめん、電話くれてたのに返さなくて・・・ずっと、レコードデビューに向けて忙しくてさ。」
「ハルさんですか?電話下さってありがとうございます!何度もメール送ってしまって、ご迷惑でしたよね?」
「嬉しかったよ。今、ひま?一人?」
「え?お友達といますけど・・・私なら、あいてます。」
「俺も連れと居るんだ。よかったら、一緒にドライブしない?」
「ドライブですか?」桜子は、受話器を片手で押さえながら、「滋さん、これから暇ですよね?」と確認する。
「はいはい!ドライブ、連れてってください。行きます!」
電話をきった桜子は、いそいそと合コンのキャンセルの電話をいれた。
それから、ハルたちと合流し、ハルの運転する車で、三浦半島までドライブした。
「あー、気持ち良いですね。ここ。」と砂浜を前に、桜子が伸びをする。
横にいた滋は、待ちきれないとばかりに、海に向かって突進していく。
「だろ?甲斐先輩と出会ったのは、この近くの高校。おれ、後輩なんだ。
そういえば、初舞台の日、楽屋に訪ねてきてくれた背の高いやつらとか桜子ちゃんたち、つくしちゃんと一緒の高校だろ?」
「滋さんだけ違うんだけど、私は先輩の一つ後輩。背の高いやつらって、一応F4って名が知られた人たちなんですけど・・・?」
「え?F4って、聞いたことあるよ。あいつらが、F4のメンバーか?」
「あと二人いるんですけどね・・・。」
それから、浜辺でしばらく遊んで、甲斐さんのおすすめの磯料理屋に行った。
「ちょっと、滋さん、甲斐さんを見る目がハートマークになってますけど・・・。」
「うん、桜子、久々のヒットかも・・・。さっきさ、海で甲斐さんと一緒に砂の城作ったの。
お城の下に穴を掘って、トンネルがつながったとき、甲斐さんの手とつながって、目が合ったんだ。その瞬間きちゃったかも・・・。」
「うそっ?それって、小学生じゃないですか・・・。」
三浦半島近海でとれた魚介類を堪能し、甲斐さんとハルの高校時代の話でもりあがったあと、「この後も一緒にいれる?」とハルが桜子の耳元に囁く。
顔を赤らめてうつむく桜子、肯定の返事だ。
その様子を見た滋は、むんずと甲斐さんの腕をとり、「私たちも!」と声高に名乗りをあげた。
「「「え?」」」
その後、4人の夜は甘く長いものとなる・・・。
つづく -
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eranndekuretearigatou18 18.
トントン・・・
「美作さん、わたし。」
「どうぞ。」
そーっと、部屋のドアをあけ、中をのぞきこんでる牧野。
「まきの、おかえり。今帰ったとこ?」
「うん。」
「突っ立てないで、中に入れよ。」
「あっ、お仕事中だった?」
「ちょっと、気になる事だけ片付けてた。もう終るよ。」
「あの、退院おめでと。まだ痛む?」牧野は、心配そうに俺を見つめている。
「あぁ、少しな。司みたいに犬並みの回復力ないからな。ハハハ・・・うっ、痛!」
「だ、だいじょうぶ?」
「おぅ。でも、明後日には痛みも治まるだろうって。」
「美作さんを刺そうとした人、どうなったの?」
「傷害罪でまだ拘置所。俺の立場上、告訴しないわけにいかないが、うちの弁護士通じて、軽くしてもらうつもりだ。もとはといえば、俺にも負があったことだからな。」
「美作さん、私があれだけ忠告してあげたのに、すぐにやめなかったから罰が当たったんだよ。」
「おいおい、俺は被害者だ。あいつの女房とは、とっくの昔にきれいに清算してる。言っとくがな、牧野、俺はマダムとはもう一人もつきあってないんだぞ。そんなひまあるか。」
誤解は解かないと冗談じゃないと思った俺は、きっぱり言った。
『じゃ、やっぱり、病室に居た秘書と付き合っているんだ。』と勘違いされたことに気付きもしないで。
そのことに、気付くのはずっと後になってからだった。
「あ、あのね、美咲ママが私の卒業祝いしてくれるらしくて、それで、花沢類の壮行会も兼ねるのはどうかだって。美作さんの退院祝いも兼ねるのかな?」
「俺は、ついでかよ。まっ、軽い入院だったからいいけど。牧野の卒業祝いは盛大にしないとな。んで、類はいつ発つんだ?」
「卒業式の次の日だって。」表情が曇る牧野。
類に牧野はなんて返事したんだろうか。
バンド活動で当分日本を離れられないだろうし、類だってフランスに行ったら早々一時帰国もできないだろう。
牧野、お前はつくづく障害が好きだなやつだな。
「まぁ、心配するな。類がいなくなっても、俺らが相手してやるから。」
そう軽くジャブをかますのが、今の俺の立場だろう。
「//// 美作さん!」
つづく -
eranndekuretearigatou19 19.
その翌々日、皆が美作邸に集まった。
「いらっしゃいませ、花沢様。皆様、お待ちです。」
「「類お兄さま、いらっしゃい~。」」
芽夢と絵夢が類にかけよる。小さなころから二人は、類のことがなぜだかお気に入りで、必ず近づいて類の顔を見上げる。
「フランスに行っちゃうの?」
「うん。」
「お友達とかいるの?さみしくなるね?」
「うん。」
「芽夢が会いに行ってあげるね。」
「ありがと。」
「絵夢も行ってあげるからね。」
「うん、ありがと。」と二人にニコリと微笑んだ。
小さな女の子と小さくない男の子の短い会話。
目にする光景が童話の世界にでてくるように可愛らしく、その場に居た者達はうっとり目を細め眺めていた。
類は、二人に手を引かれ広間に入っていった。
「あっ、花沢類!」と牧野が嬉しそうな笑顔で迎えてくれた。
「まきの・・・。」愛しいまきのの姿を見つめていると、
「類くん、いらっしゃい~。久しぶりね~。」とあきらの母さん。
「ご無沙汰してます。・・・」俺も、社会人になってから、挨拶は自然にできるようになった。
「お、もう一人の主役登場だ。類、準備で忙しいところ、よく来てくれたな。」
「あきら、退院おめでと。大した事なくてよかったね。」
「ああ、サンキュ」
「よし、まずは、乾杯だ!類のフランスでの活躍と牧野のミュージシャンとしての成功を祈って、乾杯!!」乾杯をしてから、早速、食べ物をお皿にこんもり載せて牧野が戻ってきた。
「お前、すごい食い気だな。でもな、これからは周りの目も気にしないと、なんて書かれるかわかんないぞ。」と総二郎。
「だって、おいしそうな物がいっぱいあるんだもん。ねー、滋さん!」
「そうそう、“ガマンしたら戦はできない”これ滋ちゃんの格言。ねえ、つくし、後で美咲ママのお手製ケーキが出てくるんだって。」
「え?今日はなんだろう・・・、いつも楽しみなんだよね~。」
「先輩、revolution'sの歌姫のイメージ考えてくださいよ。百年の恋も覚めちゃうじゃないですか。どこで、フォーカスされるかわかんないですよ。
桜子のお皿みたいに・・・、」
「わかってるから!これからは、私も、意識して普段から色々気をつけるつもり。だから、今日だけは無礼講。ねっ?みんなの前だけね。」
まきのの後輩は俺のほうを向き、フランスにはいつ発つのか、どこに住むのか、何年くらいフランスに居るつもりなのか、どんな仕事するのかとか次から次へと質問してきた。 とりあえず、答えるけど大半が“未定“という返事をしたから不満足そうだった。
眠くなった双子を寝かせるとあきらの母さんたちは退室し、俺たちだけとなる。
少し静まった広間。
まきのの手から皿を取り上げ、リアクションを期待しながら顔を近づけた。
「///・・・っ?」
「まきの、なんか化粧変えた?」
「え?わかる?」
「目の辺がちがう。かな?」
「さっすが、花沢類。こないだプロのメイクアップアーティストの人がメイクする間、しっかり観察したんだ。
魔法かけられてるみたいに目が変わっていくのがおもしろくて、ずっと目を離さないで。今日は、ちょっと真似してみました!」
「俺もなんか牧野、色気づいたな~って思ったさ。」
「西門さん、そんなんじゃないんだけど。」
「先輩はせっかく白くてキレイな肌してるんですから、色んな発色を楽しめばいいんですよ。」
「今までも、メイクしてたつもりなんだけど、適当だったからね・・・ヘヘ。」
「つくし、やっぱり、デビューすると事務所からお化粧とかまでうるさく言われるもの?」
「滋さん、そんなこともないんだけど。」
まきのは、一呼吸置いてから話し出した。
「道明寺と付き合ってた頃は、そりゃ大変だったけどさ、ウジウジしない自分が好きだったの。
別れた後に、どうしてこんなことになったんだろうって堂々巡りみたいに考えちゃって、そしたら、頑張ろうって思っても、肝心な頑張る気持ちってどんなだったか思い出せなくなってた。
一度、考え込むと息するのも苦しくなって、そんな私なんて最低で。
ほら、私貧乏性でしょ?だから、何かに向かって走ってないとダメなのかな?
でも今はさ、すっごい頑張ってるって実感できる。
花沢類や美作さんや皆に支えてもらったこと、感謝してるよ。
こっからは、亜門にもらったチャンスを、精一杯頑張って掴んでみようと思う。どこまでできるかわかんないけど、とにかくがむしゃらにやってみようって思えたから。
お化粧も、バンドにとって大事だから欲張ってみるつもり!」
また、強い瞳を輝かせるまきのが帰ってきたのはとても嬉しい。
まきのには何度か度肝をぬかされ、すごい奴だと思ってるし、怯まず堂々と踏ん張る立ち姿は無性に惹かれるものがある。
強い信念を見せる牧野は、いつも俺の心を揺さぶる。
所信表明するまきのも、やっぱり好きだから、その笑顔は大切にしたいと思う。
俺は、手に負えないまきのに憧れてるのかもしれないな。
俺の大好きな笑顔でいっぱい元気をもらえる方が、嬉しい。
側に居て欲しいと牧野を困らせるのは、止めておこう。
やっぱり、俺はまきのに笑っていて欲しいから。
つづく -
eranndekuretearigatou20 20.
牧野たちはケーキのテーブルへ、そして、俺たちはF3で飲んでいた。
「な、類、お前らどうなってんだ?」と総二郎が口火をきった。
「何、総二郎?」
「はっきり聞くが、牧野に伝えたのか?」
「まだ。」事も無げに答える類。
「おい、類、牧野をほったらかしにして、フランスに行くのかよ!?牧野が可哀想だろう?女っていうのはな、好きなやつからの愛の言葉だけでも待てるものだ。」
「あきら、本当にまきのは俺のことが好きって思ってるの?」類が、心底意外そうな顔して聞き返した。
「 ・・?」
「ねえ、あきら、俺がまきののプロムのパートナーになるって知って、どう思った?」
「な、なんだよ!そりゃなるべくしてなったんだろうなって・・・。」
「ふーん、そう・・・抵抗なしか。なら悪いけど、俺はまきののパートナー降りないからね、文句言わないでよ!」
「は?文句なんて言ってないだろ!何なんだよ一方的に、類。」
類は、機嫌悪そうにグラスに入った水割りをがぶ飲みした。
一体どうして、しょぼくれてるのかさっぱりわからなかった。あきらは一体何考えてんのさ。
まきのを好きなくせに、ちっとも気付いてないの?まきのの視線に。
好きになるタイミングを好きに出来るキューピットが本当にいたら、ありったけの金持って買収しに行くのに。
なんで、こうすれ違ってしまったんだろ?俺と牧野。
あきらを見る目「お兄さん」だけじゃない。まっ、まきの本人も気付いてないみたいだけど。
悪いけど、明日のプロムは独り占めさせてもらうからね。
フランス行く前に、それぐらいさせてもらうよ、あきら。
一方、あきらは、
類のやつ、何、怒って黙り込んでいやがる。
俺は、まきのを安心させてやってくれって言っただけだぞ。
そもそも類がいつまでも煮え切らないから、俺だってすっきりしないってもんだ。
司と別れ、類までいなくなったら牧野はどうなる?牧野が可哀想じゃないか。
類、牧野のこと好きなんじゃなかったのかよ。
「なっ、類もあきらも、お通夜じゃないんだぜ。
黙り込んでもなんも始まらないだろうが。飲もう!な?!」
総二郎が二人に真新しいグラスを渡し、茶色い液体をドクドク注いだ。「じゃ~ん。」
私は、出来立てホヤホヤのCDを人数分取り出した。
「うわっ、それ、revolution'sのCDじゃないの?」優紀が気付く。
「あったり~。ちょっと早いけど、無理言ってもらってきたの。良かったら、聞いてください。はい、これ皆に。」
滋さん、桜子、優紀、西門さん、美作さん、花沢類に今までの感謝をこめて皆にCDを手渡した。
滋がCDを手にするなり、「きゃ~かっこいい~、甲斐さん。」とはしゃいでいる。
「え?なんて?滋さん、キーボードの甲斐さんと知り合い?」
「知り合いになっちゃた・・・、エヘヘ。」
「滋さん、なに?その妙な笑い。目がハートマークになってるし。」
「先輩に言いそびれてたんですけど、こないだギターのハルさんと甲斐さんと私たちでドライブに行ったんです。
ハルさんからやっとリターンいただいて・・・。ハルさんってお話も上手だし、イケメンだし、ちょっと遊んでそうだけど近くで見てもいい男ですよね。」
「ちょっと、いつの間にあんた達!ドライブ行っただけ?なんかされなかった?」
「先輩、大丈夫です。合意の下ですから。」
「合意って・・・。うっ、考えたら頭がいたくなってきた。」
信じられないって顔を作っていると、美作さんが言う。
「おい、まきの、このジャケットうまく撮れてるな。」
「でしょ?好評なんだよ。」
「本当にきれいになったじゃないか。」
美作さんは、ジャケットの中の私を見つめながら、つぶやく。
直接凝視されているようで、恥ずかしくて・・・。
「///やだ、美作さん、そんなに見ないでよ。////・・・。」
陽気な西門さんが助け舟。
「おっ、ついにデビューだな。revolution'sって革命って意味だろ?牧野、後悔のないように、思うようにがんばれよ!一期一会だぞ!!」
いつも思い出したように私の背筋を伸ばしてくれる人だった。
「このまきのも、かわいい。ありがと、フランスに持ってくね。」花沢類が優しく微笑んだ。
つづく -
eranndekuretearigatou21 21.
非常階段の扉をあける。
唯一の安らぎだった場所は、早春の香りを漂わせ出迎えてくれた。
時間が瞬時に巻き戻され、甘酸っぱいそよ風の記憶が鼻先を掠める。
卒業式。
今日という日を迎えられたことへ感謝で胸がいっぱいだ。
道明寺とは色々あったけど、分厚い殻を被って隠れていた私を180度変えてくれたのも事実。
目を瞑ると走馬灯のように蘇るあいつとのけたたましい英徳時代。
思いがつながっていれば、一緒にいれると思ってた高校生の未熟な二人だった。
幸せな未来だけを信じていたあいつのこと、私が一番よく知ってるから。
あんたがいい男だったこと、誰よりも知ってるからね。
道明寺、これから私たち、頑張ってきたことを何一つ無駄にしないように生きていこうね。
空を見上げ、この場所でこの空に誓った。ガタン
「あっ、やっぱりここにいた!」
「桜子!滋さん!西門さんも!」
「つくし~、卒業おめでとう!」滋さんの強烈ハグに動けない。
「おめでとうございます!先輩!」
「牧野、おめでとう。」西門さんが、涼しげに微笑みながら、大きな花束をくれた。
「わざわざ、みんな来てくれたのぅ?」
あなた達と出会えたのも、この栄徳に来たからだと、今日は感慨深くなる。
この想い出いっぱいの学校から巣立つと思うと、あんなに卒業をまちのぞんでいたくせ、頬に涙が伝い出す。
「つくし~ぃ。」滋さんも、伝染したのか一緒に泣き出して、二人して抱き合い声を出して泣いた。
「牧野、大河原、お前らの涙腺、壊れたんか?いい加減泣き止め。」
「そうですよ、先輩。これからプロムなんですから、真っ赤な目してたら、花沢さんに心配かけますよ。」
「うん。泣き止まないとね・・・。」
あたたかな春のような温かさが、そこに感じられる気がした。美作邸にて
卒業式から戻ると、エステシャン、メイクアップ・アーティスト等のプロの手によって、あれよあれよという間にドレスアップされ、花沢類を待つだけとなった。
「うわぁ~、つくしちゃん、すごく素敵!芽夢、絵夢、来て御覧なさい!」美咲ママが双子ちゃんを呼ぶ。
「「つくしお姉ちゃま、きれ~い。」」
二人は、つくしをボーっと見上げている。
「ホントきれいよね~、あきらちゃんにも見せてあげたかったけど、今日も遅いのかしら・・・。類くんのびっくりした顔が楽しみね。つくしちゃん。」
「奥様、花沢様がお見えになりました。」
「ここへお通ししてちょうだい。」俺は急いで仕事を片付け、あきらの家まで行った。
使用人に通された部屋には、俺の選んだサーモンピンクのドレスに身を包んだまきのが立っていて、思わず目を奪われる。
軽いシルクが何枚か重なっているスカートのすそから伸びる細い二本の脚。
透けるように白い鎖骨あたりがU字型にカットされたドレスと溶け合って、艶やかで女らしい空気を感じさせる。
髪の毛はフンワリ巻きあげられて、後れ毛が心まで捉えて離さない。
そんなまきのに声をかけるのも忘れ、見入った。
「花沢類?・・・・大丈夫?」
まきのの声が聞こえ、我に返った。
「あっごめん。まきのがあんまりきれいだから、心臓が止まるかと思った。」
「ホント?花沢類を落胆させちゃったかと心配したじゃない。」
まきのは、安心したようにとろけるような笑顔をむけた。
まきの、それダメ。
それは、メガトン級の武器だね。
あんまり俺を翻弄しないで。
俺は言葉を飲み込んで、まきのの手を恭しくとった。
「さぁ、まきの、行こう!」
つづく -
eranndekuretearigatou22 22.
今日の花沢類は、楽礼装。
黒のスーツに光沢あるカマーバンドと蝶ネクタイは華やかな地模様入りで、今まで見た花沢類の中で一番フォーマルな装いだ。
どんな格好をしても素敵だけれど今日は格別、大人っぽくて男前が上がってる。
花沢物産のジュニアとして戦ってるんだもの、4年前のプロムと比べても、胸板は分厚くずっと貫禄ついて見えるから、横にいるのが私で申し訳ないくらいだ。
けど、今さらどうにもならない。
「何?」
と私の視線に気付いた花沢類が大好きなビー玉の瞳を傾け聞いてきた。
それだけでドキドキドキドキ・・・・うっ、心臓よ静まれ!!
「は、花沢類、今日、よろしく・・・。」視線を避けながらぺこりと頭を下げた。
「うん。こちらこそ。」とさっと私の手をとってくれた。英徳大学卒業プロム会場に到着し、私は花沢類にエスコートされながら会場に入っていった。
周りにいた人達は、私たちを見て動きを止め、目で追い続ける。
そりゃ、F4の一番人気花沢類がこんな王子様みたいな格好で現れたら、どんな女の子だってポーッとするよね・・・わかるわかる・・・。
でも、隣に立つ私を値踏みするのはやめて欲しい。
あー、透明人間になれればいいのに。
花沢類は自分に注目する好奇のまなざしを気にすることなく、ずんずん進んでいく。
ホールに入ってしばらくすると、浅井・鮎原・山野がこちらを見ているのに気付いた。
大学入学後は、さすがにあからさまないじめはなかったものの、F4と一緒に行動することもしばしばだった私を良く思っていないのは感じていた。
色々あったけど、あんたたちともこれでお別れね。
花沢類が飲み物を取ってくるといって席を空けている間、和也君が声をかけてくれた。
「つくしちゃ~ん。」
「あっ、和也君。うわ、今日は、カッコいいね!」
売れない演歌歌手みたいだった和也君が今日はシックなスーツ姿できめている。
和也君の横には、キュートな女の子が立っていて、私を見ていた。
「つくしちゃんに紹介するよ。こちら僕のパートナーの由貴子ちゃん。」
「「はじめまして・・・。」」
「今日のスーツは、由貴子ちゃんが選んでくれたんだ。どうだい?結構似合ってるでしょ?」
「うん。こんな男っぽい和也君初めて見たよ。よかったねー。由貴子さん、和也君ってちょっと頼りないけど、本当に友達思いのいい奴だからよろしくね・・・。」
由貴子さんは、遠慮がちに微笑んで聞いていた。
「///つくしちゃん、僕はずっと前から男の中の男だい!・・////」顔を赤くして和也君が照れている。
「あれ、花沢さんは?」と和也君が言ったとき、ちょうど花沢類が飲み物を持って戻ってきて、 オレンジジュースの入ったグラスを手渡してくれた。
「ありがとう。花沢類、和也君が彼女連れてきてるんだよ。」
「いや、まだ、か・かのじょじゃないんだけどさ・・・」と照れながら答える和也君の横で由貴子ちゃんがポーっと花沢類のことを見つめていた。
それを見た和也君は、面白くない様子。
「じゃあね、またね、つくしちゃん。」と言って、とっとと由貴子ちゃんとどっかへ行ってしまった。
「うふ、和也君が妬いてたね・・・。」
「そうみたいだね。」と花沢類。
「会場の女の子達みんな花沢類のこと見るから、相手の男の子達から花沢類にらまれるんじゃない?」
「そう?」
「そうだよ。私だって、花沢類のせいで女の子達から痛い視線を浴びてるんだからね。」
「まきの、それは、まきののせいだよ。」
「まさか・・・。」
「今日のまきのは、本当にきれい。パートナーとして、鼻が高いよ。
それに実は俺、心臓ドキドキしっぱなし・・・クスッ、男達がまきの見るのに妬いちゃってるよ。
自分のパートナーだけ見てろって怒鳴りたいんけど、いい?」
思ってもみなかったことを言う花沢類の腕を、照れ隠しでポンと叩こうとした。
「はあ?冗談いわないでよ、まったく。」
けれど逆に花沢類は、私のその手をつかみ、ぐっと顔を寄せて今にも鼻がくっつきそうな位置で止まり、じーっと私の瞳を覗き込んできた。
「うわっ、近・・・は・はなざわるい・・・?」
「この目が嘘ついてると思う?」
近くで見ると、透き通った紅茶色の瞳に吸い込まれそうで息が出来なくなる。
時計の針がカチカチ過ぎていく音が聞こえたかと思うと、それは自分の心臓の鼓動でだんだん速度を増していく。
顔を背けるとようやく花沢類が離れ、息を吹き返した魚のように必死になって呼吸をする羽目になる。せっかくのパーティー、バフェで飲食しながらパーティーを楽しみ、心に留めたいと思う。
いつもそばにいて、何気ない気遣いをしてくれる花沢類。
私の心の友でありよき理解者。
卒業の日を迎えた今、穏やかに思い出せる日々。
道明寺に赤札貼られて、全校生徒からいじめにあった時、身を呈してかぱってくれた。
「どうでもいい、他人のことは・・・」て、冷めた目つきでいるのに、廊下でレイプされかかった私を拾うように助けてくれたり、ゴミだらけの私を抱き上げてくれた。
冷たい態度と裏腹なやさしいバイオリンの音色に、私は惹かれ始めたんだ。
「まきの、踊ろう。」花沢類が手を差し出す。
花沢類の手をとり、セントラルに歩みだすと、みんなの注目を一気に浴びた。
「大丈夫だよ。」と私の緊張をほぐしてくれる大好きな微笑み。
「ステップ、間違えたらごめんね。」
道明寺との将来を考えて、英語やダンス・マナーは習ったのでなんとかできるけど、こんな視線を浴びて踊るのは緊張する。
花沢類は自分は得意じゃないっていっても、上手にリードしてくれてる。
顔を上げると、花沢類は私を見つめていて、自ずと見つめある形になる。花沢類?
今、道明寺の島の時と同じ目してるよ、何故?
どうして? さびしそうに、放っとけなくなるくらい悲しそうな、吸い込まれそうなそんな目で見ないで。
何?
胸の奥が痛いよ・・・花沢類。
私は・・・戻れないのわかってるよね?応えられないのわかってくれてるでしょ。
あの砂浜ででどうなってもいいって思ったのは昔の話。
今の私は抱きしめ返して上げられないよ。
これは錯覚?見間違いなの?なんでまた、そんな目で見るの?花沢類・・・。
戸惑うよ、花沢類?
花沢類は私の一部だって言ったら、逆にまきのは俺の一部だって言ってくれたよね。
男と女の関係でなくソウルメイトでいられたら、ずっと良い関係が続くんだよね。
嬉しかったのに、どうして?
非常階段から卒業して、厳しい社会の荒波に漕ぎ出す日。
不安が無いわけじゃないけど、とにかくやってみる事に決めたんだ。
上手くいかなくて泣きたい時もあるかも知れないけど、何も持たない自分でも踏ん張って走ることに決めた。
頑張ってと・・・その時、ふと、美作さんの微笑んだ顔が浮かんだ。
どこかでずっと私を心配し、助け続けてくれた人の存在感を意識した。
「まきの、考え事?俺のことじゃないでしょ?」
「ええ?」
やだ、見られてたみたいじゃん。
それから、何曲か踊った。
「やっぱり、行っとくでしょ?」
「もちろん。」
私達はホールを抜け出し、静まり返った校舎の廊下をあの場所まで足早に進んでいった。
つづく -
eranndekuretearigatou23 23.
「花沢類はこの場所来るの久しぶりなんじゃないの?」
「うん、懐かしいよ。まきの、寒くない?」
「大丈夫。・・・・私、この景色を時々思い出して、目をつぶってこうやって深呼吸するの。ほら、こうやって・・・。
するとね、不思議と流れを塞留めていた物が消えて、またちゃんと流れ出してくれるような気がするんだよ。」
「深呼吸だけ?叫ばなくていいの?ククッ・・・」
「もう~、あ・あれは、・・・・青春の1ページで、今となっては全部こやしになってるから、いいの!花沢類も忘れてよね!」
「俺は、忘れられないね。あんな強烈な思い出。今のまきのは、あの時のまきのも含めてあるんだろ?だから、忘れられないよ。」
「はなざわるい・・・。」
「ねえ、まきの、俺がフランスへ行っても平気?」
「花沢類、考えられないくらいショックだよ。」
またそんな悲しそうな目で見つめないで・・・。
近くの電灯に照らされた瞳は私だけを覗き込んでいて、花沢類のビー玉の瞳が揺れて見える。
私と花沢類の間の闇だけがさらに細かな粒子となって、熱い空気が漂う。
昼間だとわからなかったに違いない、でも今、この暗い静寂の中、目の前の男からあふれる出てくる思いが私にぶつかっているのが見えるようだ。
花沢類は、私を求めてるんだ・・・。こんなに、熱く強くまっすぐに。
よくわかる花沢類の気持ち。
でも動けないよ、苦しいよ・・・私は応えられない。
花沢類は私の一部だからこそ、言葉にするのが怖くて、返事が声にならず重い沈黙が流れている。
すると、お互い見つめあったまま、花沢類が近づいてくる。
一歩、また、一歩。フワッ。
その胸の中に抱きしめられて、動くことも考えることも出来ない。
花沢類はその手の力をぎゅと強め、私の髪の毛に顔をうずめた。
柑橘系のやさしい香りに包まれて、鼻腔がくすぐられ脱力しそうになる。
顔を上げると、花沢類は目を細め、焦げ付くように見つめられ、そして、ゆっくり唇が落ちてきた。
何が起こったのかわからなかったけど、多分、小さな恋のメロディーのような可愛いキス。
「まきの、何も言わなくていいから・・・。ごめん。」
「・・・・・・。」
しばらく抱きしめられたあと、花沢類はそっと私から離れた。
「さっきのキス、餞別にもらった。ありがと。」
「はなざわるい・・・。」
「甘い香りがした。ピーチ味かな・・・?」
「///////・・・・・・・。」
「いっつも、“ありがとう”と“ごめん”って言われてるけど、今のでチャラだね。こうしてまきのにキスしてみたかったんだ。ご馳走様。」
少し口角を上げて、微笑む花沢類。
「な・なに言ってんのよ・・・!///」
何だったの今の?
心臓がいくつあっても足りないよ・・・、まったく。まだ心臓がドキドキいっているうちに、突然聞いてきた。「まきのは、あきらのことが好きなんでしょ。」
「美作さんのこと?」
「そ。」
この話の展開には付いていけず、ずっこけそうな気がした。
「美作さんは、みんなのこと心配していつも助けてくれるいい人だよ。F4だって、美作さんがいないとバラバラで収拾つかなかったじゃない。
美作さんにはいつも大変そうだな~って同情してたけど、好きだなんて、ないよ。」
「あきらは、苦労症だからさ。」
「苦労症?」
「そう。貧乏性の牧野とちょっと似てる・・・ククク。」
「うーん、いわれてみれば、家族に振り回されてるところとか微妙に似ているかも。
美咲ママって、私から見てもかわいくて、永遠の少女って感じだから、美作さんが大人になるしかないんだろうね・・・フフッ。」
「最近あきら、ずっと忙しそうだね。」
「忙しくてもちゃんと、さすが、遊び人、秘書さんと楽しくやってるみたい。」
「秘書・・・?病室にいた人?そうあきらが言ってたの?」
「本人から聞いたんじゃないけど、マダムとはもう付き合ってないって言ってたし。」
「ふ~ん。」
花沢類は何か考え事をするような仕草をしてから、寒くなってきたから帰ろうと手早く運転手を呼んだ。
つづく -
eranndekuretearigatou24 24.
朝起きたら、窓を開ける。
空を見げながら、新鮮な空気を胸いっぱいに入れて肺をふくらます。
ボイストレーニングを始めてからの日課だ。
美作家には、美咲ママのラブリーな庭園があって、赤い小さな実をいっぱいつけたナンテンがちょうどここからよく見える。
スイセンたちも、開花を待ちきれんばかりに白い花弁をのぞかせている。
とうとう今日という日が来た。
CMでrevolution'sの曲も流れるし、CDも店頭に置かれる。
午前中はメンバー全員でレコード会社と広告代理店をいくつか回って、午後は雑誌の取材とその後スタジオで新曲を合わせる予定。
「よ~し、歌姫まきのつくし、始動!」
ガッツポーズをしてから、着替えてダイニングへ朝食を取りにいった。
「お早うございます。牧野様」
「あ、お早うございます。」朝から敬語で挨拶されるのは、どうも慣れない。
美咲ママから、屋敷内では立場を明確にして欲しいといわれているけども。
「おっ、牧野、おはよう。」
新聞を読んでいた美作さんは朝食を終え、テイーカップをソーサーにもどしながらくつろいでいた。
「おはよう!美作さん、今日もすっごくいい天気だね!」
「張り切ってるな。今日、発売日だもんな。
卒業式のあと、ごめんな。どうしてもぬけられなかったから。プロムは楽しかったか?」
「うん。美作さんが、昔ダンスを教えてくれたお蔭で、結構楽しめたよ。花沢類って、ダンスも上手だったよ。」
「あいつが踊ってんの、めったに見かけないけどな。ったく、わかんない奴だ。」
「美作さんは花沢類のお見送りいくの?確か、成田発11時過ぎの便だったと思うよ。私は行けないんだけどさ。」
「俺も、無理なんだ。まっ、俺は来月、向こうで類と会えるし。」
「フランスか~。静さんの結婚式のチャペル素敵だったな。
そうだ、あの時はあんた達のせいでトンボ帰りだったけど、シャンティー城って所に行って見たかったんだよな~。
湖の上に忽然と立っているお城なの。写真で見たことあって、すっごくきれかったんだ。」
「シャンティー城?今度の休みにでも、類に連れてってもらえよ。」
「え?う、うん・・・。」
美作さんの携帯が鳴る。
Tururururu・・・・・・・・・・turururururururu・・・・・・・・
「まきの、じゃ、俺行くわ。」
「うん、いってらっしゃい。美作さんも頑張って。」
「まきの、いよいよだぞ、がんばれよな!」
横を通り過ぎる美作さんは私の肩をポンポンとたたく、おまけのように頭も一つたたいて出て行った。ホテルの一室で雑誌のインタビューを受けている。
「では、バンドが結成された時は、亜門さんとハルさんと甲斐さんの三人だけだったのですか?」
インタビュアーが尋ねる。
「そうっす。俺と甲斐さんは高校の後輩と先輩の仲で亜門は別の高校だったけど、三人でギターをカチャカチャ鳴らしてたりして。んで、修が加わって。 ボーカルは違う奴だったんだけど、辞めちゃったから・・・。」
「はい、ボーカルのつくしさんはバンドに加わってからまだ一年もたっていらっしゃらないそうですね。」
「そうなんです。私がrevolution'sのライブに行ったとき、知り合いだった亜門がいて、皆で一緒にカラオケ行ったのが事の始まりです。」
つくしはハキハキ答えた。
「亜門さんとは学校のお友達だったんですか?」
「えっと、そうじゃなくて・・・・。」
正直に話すことなんてありえないし、ナント答えればいいか困っていたら、亜門が助け舟を出してくれた。
「こいつは知り合いの知り合いで顔知ってたから、”久しぶり!”ってことになって。元気な奴っていう印象はそのままで、変わらなかったですね・・・。」
確かに私は、亜門の知り合いの知り合いにあたる。
NYマンハッタン島にそびえ立つビルの高層で今でも鉄の女の異名をとる人物を思い浮かべ、背中がぞくっとした。
それから写真を取られて、無事インタビューが終った。
「つくし~、お疲れ!」
「滋さん。まだ居たんですか?」朝、甲斐さんと一緒にやってきてからずっとついてきている滋さん。
「だって、今日は記念すべき日でしょ。revolution'sをちゃんと応援することに滋ちゃん命かけてるからね・・・。つくし、はじめが肝心よ!」
「そりゃ、頼もしい応援なんですけど、そんなにくっついちゃあ甲斐さん動きにくいと思いますよ。」滋さんは、甲斐さんの腕をとり離さない勢いだ。
それからスタジオに移動して、新曲の打ち合わせに入った。
亜門はもちろんハルも修も甲斐さんも、真剣なまなざしで楽譜を眺めたり、楽器を触っている。
うわ、みんな真剣な目。
イケメンの人達が真剣な顔してる時って、なんか近寄りがたい空気が在るね。
曲のアレンジの意見を出し合って、曲創りする過程は忍耐力がいるし、責任も重くなって、よりよい意見だけがバンドの糧になるわけで必死だ。
冗談やふざけた意見は、まったく聞かれない。
妥協せず納得いくまで、詰めていく。
昨日と今日では、緊張感がこんなに違うなんて・・・こうしてプロ意識って出来てくるもの?
音が流れて、私が声をのせる。
お腹の底から声を出して、歌詞を音にしてマイクに注ぐ。
体に伝わるリズムを全身で感じて、私が楽器になって、心に響く音を届けよう。
もっともっと貪欲に、いい音を創っていきたい。
つづく -
eranndekuretearigatou25 25.
デビュー後、対外的な売り込みで事務所に行ったり、業界用語を学んだり、時にはテレビで見たことのある芸能人とすれ違ったりして、毎日が新鮮であっという間に半月が過ぎた。
CM効果で順調に滑り出し、今日のライブチケットは即完売。
チケットが購入できずに会場に入れないファンの人たちが何人か出ていたらしい。
演奏が終ってもファンがなかなか帰ろうとしないので、アナウンスで速やかな退室を促していた。
ライブハウスでの演奏は何にも代えがたい一体感のような高揚感があるけれど、事務所は集客力のあるコンサート会場での演奏を増やしていく計画らしい。
「今日の打ち上げ、どこっすか?」とハルがマネージャーの後藤田さんに聞いた。
「あっ、まだ決めてないんですけど。何料理がいいでしょうかね。」
「じゃ、滋ちゃんが決めてあげる!」
「滋、みんなの意見を聞いてから決めるようにしろよ。」
大人の甲斐さんは滋さんに軽く注意をするけど、返事するより先にどこかに電話して予約をしているようだった。
滋さんは甲斐さんにべったりだ。
甲斐さんもそんな滋さんが可愛いらしくそばに置いていて、人前でも関係なく抱き合うのは目のやり場に困る。
お店は新しく出来たちょっといい感じのクラブみたいなところで、店の奥にあるVIP ROOMに通された。
黒皮のソファーがとてもやわらかくて気持ちいい、疲れた身体にほどよく返ってくる弾力性が良い。
ソファーの背中側から赤い間接照明が照らされ、どことなく宇宙船を思わせる店だ。
「ここは、うちの子会社が最近出したお店なの。
いい宣伝になるから、revolution'sを連れてきちゃいました~、エヘヘ。
ということで営業なので、今日は全部店のおごりです!
いいコックを引き抜いてきてるから、何でもおいしいよ。じゃんじゃん、食べて飲んでよ~。」
それを良いことに、皆は遠慮なく食べ物もたくさんオーダーし、乾杯の嵐だった。
デビューしてから今まで、何かと忙しかったスタッフを含めた私たちは、好調な船出を祝おうと無礼講で盛り上がった。
目の前にはキレイに盛り付けられたおいしそうな料理がいっぱい、皆が楽しく盛り上がる様子はさらにお酒をおいしくさせる。
「つくし、大丈夫か?」いつの間にか亜門が隣に座っていた。
「亜門~、もう社会人ですからねえ~、だいじょうぶ!」営業スマイルをつけて返事する。
「あいつら四六時中くっついてやがるけど、暑苦しくないのかね・・・?」亜門の目線をたどると、甲斐さんが滋さんの肩を抱き、お互いの空いてる腕をクロスして飲ませあいっこしてる。
「なにあれ?・・・・乱れてるよね。」
「乱れてる・・・か。つくしはしたくないよなあ、あんなの。」
「する訳ないじゃないのよ~、だいたい、なんであ~んなにこんがらがって飲まないといけないの~。
飲みたい量だけ自分で飲むの、私は!」
目の前の置かれた赤ワインのグラスを一気飲みした。
「あっ、お前、もう止め・・・と・・け。あー、全部飲んじゃった。」
亜門が眉毛をひくっと上げる。
亜門のその顔は道明寺のそれに似て、青筋立てる前には眉毛をひくっと上げてたことを思い出させ、少し感傷的な気分になった。
「亜門、やっぱり似てるよ。」ポツリとこぼす私。
「・・・・・。悪いな、顔変えれなくて。」
「こないだ雑誌見てたら、あいつ婚約したって。これでよかったんだって思ってるよ、私。
でもなんだったんだろうね、道明寺と私の恋愛は。亜門が言っていたように恋愛っていつか風化するものなのかな・・・?」
「まだ、お前の恋愛を語るのは早いんじゃないの?」
「でもさ、ちゃんと語れるような恋愛が絶対やってくるとは限らないもんね。
ねえ、亜門、景気づけに飛び切りのカクテル作ってくれない?」
「まだ、飲むのかよ。」
「宴はこれからだって~!」
気合を入れなおして叫んでみる。
亜門は、じゃちょっと待っとけと部屋を出て行った。
戻ってきた亜門の手には、明るいピンク色のキレイなカクテル。
そのカクテルを見た滋さん始め何人かのスタッフが、それは何だ?何だ?と口々に聞いてくる。
「アルコールは控えておいたぞ。これでも飲んどけ・・・。」
亜門から手渡されたグラスを眺めながら、飲んでみる。
「うわっ、おいしい。これ何?すごいきれいなピンク色だ~。」
「これは、What is loveっていう名前のカクテル。」
「恋愛って何?ってこと・・・。」
ピンク色の液体の向こうに何かあるのかもとのぞいても、やっぱり何も見えなくて一気に飲み干した。
「亜門、もう一杯!」
「それ以上は喉に悪い、飲みすぎ!」
亜門が作ってくれないのを聞きつけたスタッフの一人が、人数分持ってくるようオーダーしたようだ。
「オーダーしましたから、今日だけはね!」
そう言われて、亜門は黙っていたけど、私はさらにテンションが上がりとても楽しかった。「うっ、吐きそう・・・。」
「だから飲みすぎだって言っただろ!」
時間は夜中の1時。
打ち上げがお開きになり、俺は酔いつぶれたつくしに手を焼いていた。
こんな時間に豪邸の美作家のベルを押すのも気がとがめ、とりあえず、つくしを俺の家で面倒見てやろうと思った。
部屋に入るとつくしのスカート・フックをはずし、ファスナーを途中まで下げた。
そしてそっと、ソファーに横たえると、つくしはすぐに赤ん坊のようにスースー寝息を立てて寝始める。
「知らんぞ、こんな無防備なやつ・・・。」
シャワーを浴びて戻ってくると、寝返りを打ったつくしの白い太ももが露わになっており、俺はあわててタオルケットを取りに行った。
水を飲んで一息つくと、つくしの横に座り寝顔を眺めた。「私は道明寺が好き!」
あの時、強くてまっすぐな瞳には力が入ってたな。
ブスッと俺を突き射す勢いだった。
こんな細い身体のどこにあのエネルギーが宿っていたのだろう。
英徳のお嬢かと思ったら、家計を助けるためバイト三昧の勤労少女で、付き合ってた相手が道明寺財閥の息子。
体張って突っかかってたよなぁ・・・あの頃。
お前のおかげなんだよな。
俺はバンドに本腰を上げる気になったのは。
ガンバッテ生きてみるのも悪くないと思い始めたきっかけはお前だ。
いつか借りをかえさないと・・・ふっ。
Trururururururur・・・・・・trururururuururururu・・・・・・・・
つくしの携帯から呼び出し音が鳴りだし、起こすよりマシだと勝手に取り出しフリップを開いた。
携帯の表示は、“美作さん”となっていた。
プチッ
「はい。」
「・・・?誰だ、お前・・・」
つづく